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中川貴雄の臨床応用〈Web版〉
四肢のマニピュレーションのコツ [第3回]

中川貴雄の臨床応用〈Web版〉四肢のマニピュレーションのコツ [第3回]

肩甲上腕関節 内旋・外旋モビリゼーション
(四肢のマニピュレーション P66,70)

 前々回は、肩甲上腕関節の後方モーション・パルペーションとモビリゼーションを行う場合の注意点を書きましたが、今回は回旋モーション・パルペーションとそのフィクセーションに対する治療法である回旋モビリゼーションの注意点について説明したいと思います。

1. 肩の回旋障害

 この肩の内旋/外旋検査と治療は、肩の回旋制限の治療に多く使われます。
 特に、手が後ろに回らない、髪を解くことができないといった日常の問題から、野球での投球やバッティング、バレーボールのスパイクやサーブなどのスポーツに関連した肩の内旋/外旋の修正、違和感や障害の治療にも応用することができます。

 長年、治療にたずさわっていて、難しく頭の痛い問題が、この肩の問題、特に五十肩や肩板損傷です。この難しい障害のための解決法の一つとして、検査法であるモーション・パルペーションと治療法としてのモビリゼーションを使うことができるのです。

 使用上の注意事項ですが、安静時でも疼きが続くような炎症期は適応ではありません。また痛みを伴う検査と治療は症状を悪化させることが多いため注意が必要です。

肩関節内旋MP(P30-28)
肩関節内旋MOB(P70)

2. 肩甲上腕関節 回旋モーション・パルペーションと治療(モビリゼーション)

検査と治療は同じ形と方法で行うことができる

 この検査と治療は、前回の後方モビリゼーションと同様に、検査である回旋モーション・パルペーションと、その治療であるモビリゼーションはほぼ同じ形で行うことができます。そのため、検査法あるいは治療法のどちらかができるようになると、その治療あるいは検査は同時にできるようになります。この回旋モビリゼーション(図右)は回旋モーション・パルペーション(図左)の応用であり、回旋モーション・パルペーションは回旋モビリゼーションの応用なのです。

3.「内旋モーション・パルペーション」と「内旋のモビリゼーション」の使い方

 ここでは内旋検査と治療について説明します。

 内旋モーション・パルペーションは、「上腕骨内旋可動性検査」(四肢のモーション・パルペーション下巻 p30)を使い、内旋方向に硬く感じる方向(フィクセーション)の有無を検査します。そこにフィクセーションが見つかれば、そのまま硬く感じる内旋方向にやさしく、痛みのない押圧を断続的に加えることで治療を行います。これが、「上腕骨内旋モビリゼーション(1)」(四肢のマニピュレーション P70)なのです。この方法を用いれば、その形を変えず、検査から治療が一つの動作でできるようになります。

 外旋も同様に行います。検査として「上腕骨外旋可動性検査」(四肢のモーション・パルペーション下巻 p30)を行い、そこに外旋フィクセーションを見つかれば、治療として「上腕骨外旋モビリゼーション(1)」(四肢のマニピュレーション P66)を用いればよいことになります。

4.  肩甲上腕関節の内旋モーション・パルペーションとモビリゼーション

コツ:まず肘の内旋、次ぎに上腕骨上端の内旋を行う

まずモーション・パルペーションです。

①まず、上腕骨下部、肘を左手で内旋します。この操作で肘から上腕骨を内旋します。

②次に、右手で上腕骨上部、肩を制限が感じられるまで内旋します。これによって上腕骨の内旋フィクセーションがあるかどうかを検査します。

③内旋に制限があれば内旋フィクセーションがあり、内旋方向への治療が必要であると判断します。ここまでがモーション・パルペーションです。

次に治療です。

①内旋フィクセーションがあれば、この内旋位を緩めず、より大きくフィクセーションに対して断続的に内旋モビリゼーションを加えます。

②硬く感じたフィクセーションが柔らかくなれば治療は終了です。

③もう一度、モーション・パルペーションを行い、フィクセーションが消えたかどうか、効果を再確認します。

別法: 内旋位を緩めずに、内旋ではなく、上腕骨頭前面に後方への押圧をかけます。

5.肩甲上腕関節 内旋/外旋モーション・パルペーションとモビリゼーションのコツ

 肩甲上腕関節に治療を行うとき、大きな問題があります。

 肩甲上腕関節は可動域と可動性が非常に大きな関節なのです。柔軟性が大きいため、グラグラと固定しにくい関節であり、それが正常な肩関節なのです。肩が膝関節のように動きが一方向で硬ければ、手をあちこちに動かすこともできません。

 肩甲上腕関節がグラグラと動きすぎてしまうため、「このくらいでいいかな?」などと、適当なところでモーション・パルペーションを行うと何が悪いのかわかりません。わからないままモビリゼーションを行うとほとんど効果が出ません。グラグラしている関節をグラグラと治療を行っても、何の効果も望めないのです。

 この可動域の大きな肩関節回旋検査と治療のコツは、肩関節のゆるみをどれだけ的確に除いた状態で行うかということになります。特に内旋モーション・パルペーションとモビリゼーションは外旋よりも運動域が大きく難しいことが多いのです。いい加減な操作やこのくらいでいいかな? というような操作では、思ったような効果は出ないのです。

 ここでも内旋フィクセーションの検査と治療について説明します。
 その操作は、下記の①、②、③を連続して行います。①は肩甲上腕関節の回旋の緩みを除く方法、②はモーション・パルペーション、③がモビリゼーションです。④、⑤、⑥はそのときに起こる現象の解説です。

関節のゆるみを除くために重要なことは、写真のように、術者の右手と体重によって患者の右肩をテーブルにつけておくことと、左手で持っている肘が術者の右膝の上で固定されているということです。これが基本肢位で、これを動かしてはなりません。このとき患者は何の痛みも違和感も感じないことが重要です。

肩甲上腕関節の内旋の緩みの除き方: 操作は、まず、肩の内旋が止まるまで、肘(上腕骨下端)を外方手で内旋していきます。このとき肘を少し前方に上げていくと操作が行いやすいです。次に、内方手で上腕骨上端をフィクセーションが感じられるまで内旋します。このとき、「操作は痛くないこと」、これが必須です。痛いと治療効果が上がりません。このとき肩のグラグラ感がなくなり、肩に “カチッ” とした硬さが感じられればOKです。

②次が、モーション・パルペーションです。この操作で、内方手に内旋方向へのフィクセーションが感じられれば治療が必要です。弾力性が感じられれば正常であり治療の必要はありません。

モビリゼーションを使ってフィクセーションの治療を行います。これは内旋フィクセーションが感じられたところから始まります。ここから、フィクセーションが最も大きく感じられる方向に身体を使ってもう少し内旋圧を加えます。

④内旋圧が適切であれば、フィクセーションがだんだん柔らかくなってきます。フィクセーションが“フゥー” と柔らかくなり、硬さが内旋方向に遠ざかって行くように感じたら治療は終了です。
 このときも患者が違和感や痛みを感じてはなりません。

⑤モビリゼーションによって硬さが変わらなければ、肩甲上腕関節にモビリゼーションの効果があらわれないような異常があるか、フィクセーションが大きすぎるか、何回か続けて治療が必要か、術者の操作が適切ではないかなどの理由が考えられます。

⑥何度治療しても効果が持続しない場合やすぐに効果が元に戻ってしまう場合は、他の部位から肩甲上腕関節に二次的に症状があらわれている可能性もあるため注意が必要です。

なぜ、内旋制限なのに、別法では後方圧をかけるのか?

①実をいうと、内旋治療時、上腕骨上端に内旋圧をかけることは難しいのです。内旋が難しいため、内旋モビリゼーションを行ってもなかなかフィクセーションがよくなるという実感が感じられないことが多いのです。

②その弱点を補うのが、後方圧です。

③モーション・パルペーションの操作は、同じように行います。

④身体を使って、特に上腕骨上端に内旋をかけていき(決して痛みを伴わないこと)、内旋フィクセーションが感じられれば、それを弱めないように、内旋を止めます。

⑤ここからは内旋を行わず、後方圧を加えます。フィクセーションが最も大きく感じられる方向に後方に向かって身体で僅かな押圧を加えます。体重をかけるのは1〜2cmくらいの深さです。患者が苦痛や痛みを訴えれば、押し過ぎです。グラグラしていれば押圧が足りません。

押圧は、押したり引いたりしてはいけません。押すだけです。「押す」「押す」「押す」というように1〜2cmの幅で、10回程度、やさしく押圧をかけます。決して痛みを与えてはなりません。また、より一層内旋を加える必要はありません。しかし、最初の内旋は緩めてはなりません。

 上腕骨に回旋モビリゼーションを行うとき、上腕骨上部に強く回旋操作を行うと、力は入れているけれど、その力が上滑りしているように感じる方もおられると思います。

 これは上腕骨の柔軟性が大きいため、回旋を行うと、回旋しようと思った瞬間、後方への圧が弱くなり、グラグラとした回旋治療となってしまうからです。これが起こると、治療効果はあまり期待できません。これは初心者に多く見られる問題です。

 こんな悩みを解決する方法が後方圧なのです。肘と上腕骨上部で回旋の緩みを除き、それを緩めることなく、後方圧だけを行います。回旋を緩めていないため、治療のための回旋トルクはしっかりと効いています。そこに1〜2cmのごく短い後方圧を加えることによって、上腕骨に1〜2cmというごく小さな回旋をかけることができるのです。

7. 3:7の回旋

 「四肢のマニピュレーション P70の上腕骨内旋モビリゼーション(1)」、「四肢のマニピュレーション P66の上腕骨外旋モビリゼーション(1)」に内旋/外旋において、上腕骨上部回旋と肘回旋との比率が3:7と書きました。これは、上腕骨上部の回旋と肘の回旋との割合のことです。が上腕骨の回旋、で7が肘の回旋です。上腕骨の回旋は、まず、肘で大きく7 行い、その後で、上腕骨上部の微調整の回旋を3 行うべきであるということです。

 上腕骨の回旋を、直接、コンタクト・ハンド(写真 右手)で上腕骨上部に行うと回旋力が加えにくく、中途半端な回旋になってしまいます。また、コンタクト・ハンドに回旋のための力を入れすぎると、コンタクト・ハンドの感覚が大きく低下して、どこまで治療を加えればよいかもわからなくなってしまいます。

 肩甲上腕関節の上腕骨に対して有効に回旋をかけるためには、まず間接手(肘)の回旋で、十分に肩関節の緩みを除くことです。コンタクト・ハンドを使って、直接上腕骨に回旋をかけることは極力小さくしなければなりません。

中川 貴雄(なかがわ たかお)

昭和23年2月、三重県鳥羽に生まれる。昭和53年、米国カリフォルニア州ロサンゼルスのロサンゼルス・カイロプラクティック大学(LACC、現・南カリフォルニア健康科学大学SCUHS)卒業、ドクター・オブカイロプラクティック(D.C.)取得。カリフォルニア州開業試験合格。同地にてナカガワ・カイロプラクティック・オフィスを開業するかたわら、母校LACCで助手、講師を経て、昭和62年まで助教授としてテクニックの授業を受け持つ。その間、昭和56年には全米カイロプラクティック国家試験委員も務める。カリフォルニア州公認鍼灸師。平成11年、帰国。大阪にて中川カイロプラクティック・オフィス開業。 

日本カイロプラクティック徒手医学会 名誉会長
モーション・パルペーション研究会(MPSG) 会長
明治鍼灸大学(現 明治国際医療大学)保健医療学部 柔道整復学科教授
宝塚医療大学 柔道整復学科 教授

著書
脊柱モーション・パルペーション
カイロプラクティック・ノート1
四肢のモーションパルペーション下
四肢のマニピュレーション 

訳書
関節の痛み
オステオパシー臨床マニュアル
オステオパシー・テクニック・マニュアル
カイロプラクティック・セラピー など

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