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徒手療法の世界に身を置いて <第7回>
短所をなくせば長所は伸びる
-北口榛花・オリンピック代表 女子陸上やり投げ選手の日本記録更新から-

徒手療法の世界に身を置いて 短所をなくせば長所は伸びる-北口榛花・オリンピック代表 女子陸上やり投げ選手の日本記録更新から-

徒手療法の世界に身を置いて <第6回>「徒手療法の魅力を語る夕べ」から はこちら

オリンピックイヤー

 昨年開催予定だった東京大会が新型コロナウイルスの影響で、1年延期され今年の開催になった。中学、高校と陸上をしてきた私にとっては、やはり陸上競技が気になるところである。

 陸上競技は走る・跳ぶ・投げるというスポーツの基本となる動作が主流となるが、身体的能力がものを言うだけに、ファイナリストの顔ぶれは圧倒的に外国人選手ばかりだ。しかしそんな中でも、ここ最近は日本人選手がその仲間入りをしただけでなく、メダルを獲得する選手も出てきた。外国人選手と比べると、どうしても劣る身体能力を、技術で埋めてきた選手たちの努力の賜物である。

投げる競技でも走ることが大事

 オリンピック陸上のメダリストとしては、男子4×100mリレーは記憶に新しい。女子マラソンではいくつものメダルを獲得している。しかし女子のそれ以外の競技では、6位入賞はあるもののメダルを獲得したのは、1928年(第9回アムステルダム大会)の800mで、人見絹枝さんが銀メダルを獲得して以来出ていない。やはり身体能力の差は埋めることができないものなのか?

 そんな中、今年女子陸上競技界でメダルが争える選手が出てきた。やり投げの北口榛花選手だ。彼女は小中学校では水泳とバトミントンをしていて、陸上競技を始めたのは高校に入ってからだという。なんと入部2カ月で、北海道大会優勝。それ以降、世界ユースでも優勝し、2019年10月には66mという2度目の日本新記録を出している。

 しかし北口選手のここまでの道のりは、決して楽なものではなかった。2016年には右肘内側側副靭帯損傷により、競技からは離れざるを得なくなり、復帰後の記録も平凡、またはそれ以下だったらしい。そんな彼女が、どのやって2度の日本記録を打ち立てることができたのか? そのきっかけはYouTubeで彼女の投げ方を観た、チェコのコーチからの「走り込みが足りないね」という助言だった。

自分と向かい合う

 やり投げは基本的に「投げる」という動作と「助走/走る」という動作が必要になるが、彼女は小中学校での水泳やバトミントンなどを通じて、「投げる」ことに必要な肩周りの柔軟性と、やりの振り切りという基本動作はできていた。

 それがあって、競技を始めてすぐに記録を出し、数々の大会で優勝してきたわけだが、持ち味である「投げる」ということだけで好成績を収めていたため、苦手としていた「助走/走る」ということには目を瞑っていたらしい。しかし、ケガをしたことで競技から離脱、復帰後も記録を伸ばせずにいたところに、チェコのコーチから言われたことをきっかけに、それまで目を瞑っていた「助走/走る」に取り組み、徹底的に鍛え上げたのだ。

 長所を伸ばさなくても、短所をなくせば長所はどんどん生きる。彼女の「投げる」というスキルは、非常に高いレベルのものだったので、今以上に遠くに投げるためには助走のスピードが必要不可欠だった。スピードが上がれば上がるほど、言うまでもなく加速度が増す。それをやりに伝えることができて、初めてやりは遠くに飛ぶ。その結果がオリンピックを目前に控えた時期の2度の日本記録更新につながったのだ。

一流になるためにこそ短所をなくすことに

 では、われわれ徒手療法家はどうだろう? 徒手療法家にとってのスランプは、患者が良くならない、結果が出ないことが一番のものと言えるだろう。ここでの投げるという動作が、徒手療法の施術手技ということならば、助走は検査手技ということになる。助走を見直すことで、施術手技のスキルが今以上のものになるかもしれない。

 陸上競技におけるやり投げも高跳びも、種目は違えど助走を見直すことによって、遠くに飛ばしたり高く跳べるのは間違いない。

 患者が良くならない、結果が出ないとなると、即一番直接的な施術技術に目が向きがちになるが、あまり目を向けていない助走を見直してみてはどうだろうか? 短所をなくせば必ず長所は伸びてくるのだから。


辻本 善光
(つじもと・よしみつ)

現在、和歌山市で開業。
現インターナショナル・カイロプラクティック・カレッジ(ICC、東大阪市)に、22年間勤め、その間、教務部長、臨床研究室長を務め、解剖学、一般検査、生体力学、四肢、リハビリテーション医学、クリニカル・カンファレンスなど、主に基礎系の教科を担当。
日本カイロプラクティック徒手医学会(JSCC)学術大会でワークショップの講師を務め、日本カイロプラクティック登録機構(JCR)設立当初には試験作成委員をつとめる。
現在は、ICCブリッジおよびコンバージョン・コースの講師をつとめ、また個人としてはカイロプラクティックの基礎教育普及のため、基礎検査のワークショップを各地で開催するなど、基礎検査のスペシャリストとして定評がある。

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