2014 8月カイロプラクティックジャーナル

  2014  8月

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ドクター・ミツ(塩川満章D.C.)の40年を超える臨床のすべて !!

投稿日:2014年08月31日

<第41回>「責任TrP」は腹筋にできる

投稿日:2014年08月30日

カイロジャーナル80号 (2014.6.22発行)より

トリガーポイントはどのようにして作られるのか① 

トリガーポイントの現象

トリガーポイント(TrP)の発生を理解するためには、まず運動生理学的に正常な筋収縮のメカニズムを理解しておく必要がある。当然、TrPにみられる収縮の状態は、正常な収縮とは異なる。

筋の収縮は、単一の筋肉とその拮抗あるいは共同する作用による筋との関わりで起こるので、その作用は広範囲の筋肉に及ぶことになる。ところがTrPは筋肉の局所的な現象である。したがって一口に「筋の収縮」と言っても、生理的に正常なものとは少し異なる現象である。

TrPにみられるような収縮現象を、英語では「contraction knot」と表現するようだ。要するに筋線維の一部が拘縮した上に「knot」という「結び目」状態、あるいは2本以上の線維が絡み合った「結紮(けっさつ)」状態を指している。

触診すれば、それが帯状に認められることから「索状硬結」とも表現される。筋線維の塊となった硬結である。その帯状の硬結の中に過敏な圧痛部位があれば、それは活性された硬結である。

その硬結を刺激(圧縮・短縮や受動的なストレッチなど)すると、そこから離れた部位に関連痛を起こすことがある。その硬結がTrPである。この関連痛は、患者が日常的に自覚する痛みとして再現されるものだ。押圧すると飛び上がるような痛みがあり、これをジャンプ・サインという。

しかしTrP自体を肉眼で捉えることはできない。触診刺激では局所単収縮反応や鳥肌、発汗などの交感神経反射の現象をみることがあるが、これとて必ずしもTrPの異常所見と決めつけるわけにはいかないだろう。

局所単収縮反応は鍼の刺入時にも起こるらしいし、筋膜や骨膜の刺激でも起こる。だからTrPや筋肉における特異的な反応とは言えないのだろう。もちろん、画像診断、病理検査、血液検査での異常所見もみられない。だから厄介でもある。触診で確認するしかないのだ。

活性TrPは、それを内包する筋筋膜が、持続的あるいは過剰に動かされることで、筋の緊張度が亢進することも誘因になる。あるいは寒冷の急激な変化や加熱など、また心理的緊張状態など情緒的な苦痛などもきっかけになるとされている。これらは血管収縮による反射性の筋痛である。

また、活性TrPがもたらす症状は痛みだけではない。しびれ感、感覚鈍麻のような感覚の異常もみられる。もちろん運動は制限される。自発痛もあり、痛みのため筋力も低下する。視覚や前庭(三半規管)、位置感覚の乱れも生み出す、とJ.G.Travellは『TrP・マニュアル』の中で述べている。

筋の中央部に出来たTrPをセントラルTrPと呼ぶそうだが、TrPは筋の中央部にのみ存在するわけではない。骨の付着部周辺やや筋腱移行部にもよく見られるからである。しかしこれらはセントラルTrPによってコントロールされている、とTravellは記載している。

と言うことは、筋腹にできたセントラル・TrPがキーとなる責任TrPであり、そこから離れた関節やその周辺の組織に関連痛を起こすというのが、あくまでも典型的なパターンなのだろう。

トリガーポイントはどのようにして作られるのか②

古典的仮説「エネルギー危機説」

筋腹にできるTrPが、キーとなる責任TrPだとされている。その根拠はなんだろう。

それには、提唱者であるTravell医師のTrP仮説に遡らなければならない。Travell & Simonsによる「エネルギー危機説」とされる初期の仮説である。

図1はTravellが『TrP・マニュアル』第2版に掲載されたものであるが、日本語に翻訳されてTrPに関する論文や著作によく引用されている。

Travell & Simonsによる「エネルギー危機説」の機序

図1 Travell & Simonsによる「エネルギー危機説」の機序

筋の収縮運動は、フィラメントの首振り滑り運動によって実現される。この滑り運動のエネルギー源として働くのがATPであるが、ATPの不足はエネルギー危機説の重要な素因となっている。

筋肉の収縮は、運動点(神経終盤)におけるアセチルコリン(Ach)が分泌されて脱分極することにはじまる(第1ステップ)。

活動電位が横行小菅(T菅)に伝わると、T菅の両側には筋小胞体の一部が2つ接している。その狭間に足タンパク質と呼ばれるCaチャンネルがあり、筋小胞体からCaイオンが放出される時の通り道となる。こうしてCaイオンが放出され、筋線維が持続的に収縮することになる(第2ステップ)。

具体的には、筋節(サルコメア)を構成する太いミオシンFの双頭の分子が、細いアクチンFに放出されたCaイオンに引き寄せられて接触し、連結橋が作られる。この連結橋におけるミオシン双頭の首振り運動によって、アクシンFは筋節中央まで引き込まれ、収縮が維持される。

さらに収縮するためには連結橋をATPが一旦壊して(第3ステップ)、再収縮させなければならない。その再収縮ために、再びCaイオンが必要となる。ATPが連結を破壊する。

この時点で、Caイオンは筋小胞体に吸収されていなければならない。この一連の反復で筋収縮が行われる。TrPは、この3つのステップのプロセスにおける不具合で生じるということだろう。



<第11回>アミノ酸とマニュピレーションを考える

投稿日:2014年08月30日

カイロジャーナル80号 (2014.6.22発行)より

リジン欠乏で靱帯強度低下か? 患者の皮膚の状態もヒントに

タンパク質は、様々なアミノ酸で構成されている。人間の体を構成するアミノ酸は、20種類といわれている。このうち、9種類は必須アミノ酸といわれ体内では合成できないアミノ酸であり、食物からの摂取が不可欠なものである。これらは、バリン、ロイシン、イソロイシン、トレオニン(スレオニン)、ヒスチジン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファンである。これらの中で、マニピュレーションに関わると考えられるものはリジンである

靭帯の組成は、水分64 %、残りの36%はⅠ型コラーゲン、III型コラーゲン、その他、工ラステン、プロテオグリカンである。水分以外での主な構成物質はⅠ型コラーゲンである。Ⅰ型コラーゲンのアミノ酸組成は、グリシン、プロリンとヒドロキシプロリン、アラニン、ヒドロキシリジンである。ヒドロキシプロリンとなり、コラーゲンの3本のペプチド鎖(トリプルヘリックス)の間の水素結合を形成し、コラーゲンの構造を安定化させる。また、リジンが水酸化されたヒドロキシリジンは分子間の架橋を形成して、コラーゲンの強い線維構造をつくる。このうち、プロリンは体内で合成できるアミノ酸であるが、リジンは必須アミノ酸に含まれる。このため、食物からの摂取が必要になる。

もしも、リジンの摂取量が低下した場合、これは必須アミノ酸をバランスよく摂取する必要があるが、コラーゲンの強い線維性構造は保持されるのであろうか?

仮説ではあるが、加齢により、消化機能が低下することは知られているが、タンパク質の消化機能も低下する可能性も否定できない。タンパク質消化機能が低下することで必須アミノ酸をバランスよく摂取することはさらに難しくなると考えられる。それでは靭帯の主な構成物質であるコラーゲン、そのコラーゲン線維の強度に関わるヒドロキシリジン、その前駆物質であるリジンは欠乏しないのであろうか? リジンが欠乏する場合、靭帯強度に影響し、その強度を低下させる可能性があるのではないだろうか? このような状態が起これば、関節構造の退行性変性である骨棘形成や関節炎などに発展する可能性も考えられる。

このため、臨床においてマニピュレーションを加える場合、タンパク質の消化吸収機能低下を持つ高齢患者、あるいは胃、膵臓、肝臓、小腸の機能の障害を持つ患者もまた関節へのマニピュレーションは過剰な力、けん引力、ストレッチを加えないように注意すべきではないだろうか? このように考えると、筋骨格系の問題であっても、患者の身体状態を把握することが重要になるのではないであろうか?

リジンは皮膚の保湿やハリを与えるといわれていることからも、皮膚の状態にも影響する。このため、患者の皮膚の状態を観察することも、1つのヒントになる。皮膚のしわが多い患者、乾燥している患者には、リジンの欠乏によるコラーゲン線維の脆弱化が存在する可能性も考慮するべきである(皮膚の乾燥は単なる脱水状態のケースもあることに注意)。これは単なる視診からの情報である。何を考えて視診を行うのか? それが重要だと自分自身でも痛感させられる。

靭帯脆弱化、フィクセーション、筋膜短縮、頭蓋障害、末梢神経障害、その他結合組織の硬化による栄養学的なアプローチは、9種類の必須アミノ酸をバランスよく摂取すること、さらにコラーゲン合成に必要なビタミンC、鉄分、水分の摂取と考えられる。

<第28回>心の垣根を越えて真剣に学ぼう

投稿日:2014年08月30日

カイロジャーナル80号 (2014.6.22発行)より

日本の皆さんお元気ですか? きっとそろそろ梅雨時ですよね。私が暮らす北カリフォルニアは毎日爽やかな晴天が続いています。しかし、ここ数年降雨量が少なく深刻な水不足に陥っています。庭に水を撒くのもつい遠慮がちになってしまいます。日本の雨を少し分けてほしいぐらいです。本当に程々とか適量ほど難しいものはないとつくづく感じさせられます。何事もバランスが大切ですよね。

現状に合った制度

さて、私たちが愛するカイロプラクティックの業界のバランスはどうでしょう? 皆さんはどう思われますか?

考えたこともない、もう諦めているという方も多いかもしれませんね。今までも様々な団体が誕生し、消えてなくなったり、名ばかりで目立った活動をしていない団体も多いと聞いています。その設立動機の根底がパワーゲームである団体は特に消えるのが早いようです。先日あるカイロ紙を見ていると同じページの隣同士にお互いを牽制し合うように国民生活センターの窓口は自分たちだという事をアピールしている二つの団体の投稿記事が載っていました。私は国民生活センターの問い合わせがそんなに価値があることなのかと不思議でしょうがないのです。ここでもパワーゲームだ、くだらないと思わず独り言を言ってしまいました。まるで虎の威を借りているように思えてしょうがないです。虎の威の力もないような事を争って足の引っ張り合いのようなことをするのではなく、本当の意味で業界の発展を考えて力を合わせる事を訴える人はいないのかなと思います。いや、そんなまともな人はこのパワーゲームに愛想を尽かし、きっと我関せずを決め込むのでしょう。

。私が所属する日本カイロプラクターズ協会(JAC)も二言目にはWFCやWHO基準です。WHO基準は素晴らしいですが、日本の現状ではその前に日本基準を作ることの方が先だろうと普通の常識人なら分かるはずです。JACが世界との窓口になってくれるのは業界にとってとても大切なことですしかし、今の業界に強引にWHO基準を持ち込んでも上手くいく道理がありません。JACは上手くそこの舵取りをしながら、WFCに言われるがままではなく「日本のカイロ」を作り上げることにも一役買わなければならないのです。JACが全てをリードするのではありません。日本には他にも優れた団体があるだろうし得意分野を提携しながら力を合わせて日本の国内をまとめていく必要があるでしょう。JACが安全教育プログラムを作って二年制のカイロ学校を出た人にもJCR試験の受験が認められ合格すればJCR登録カイロプラクターとしてJACでも認められるというプログラムを開始しました。これは素晴らしいと思います。だけどより開かれた日本の国内基準確立のための一歩に過ぎないのです。破綻しつつある世界のカイロ業界に頼るより、自分たちで日本の現状に合ったカイロ制度をしっかり協力して作り上げ、それを時間を掛けて成長させていくことが望ましいのです。

私は日本の団体や学校の方々とできるだけ機会をつくって会ってきました。私はどんな人とでも会って話を出来ます。実際会ってみると皆さん情熱家で良い方ばかりです。ところがその情熱が偏るとバランス感覚を失ってしまいます。どうして皆さんカイロを愛する良い人なのにまとまれないのだろうと頭が痛いですが、パワーゲーム、そして多様性を持つカイロの哲学とテクニックにも原因はありそうです。皆さんそれぞれのカイロ観があって、自分の考えと違うものは認めたくないという器量の狭さがネックとなっています。要するに人間がちっさいとしか言いようがない方が多ければ多いほど、ことは難しくなるのです。JACは自分たちが日本を代表する団体だとふんぞり返るのではなく、僭越ながら日本の業界の取りまとめ役をさせていただきます。又WFCとの窓口も皆さんのために引き続きさせていただきますが、あくまで日本の業界の皆で力を合わせて日本のカイロ業界の発展のため、自分のためではなく次世代のために何をすればいいのかを考えていきましょうという態度をもって欲しいです。

多くの人と交流を

かく言う私ももう少し謙虚さを持ってものを申せばいいのですが、あいにく生来性格がはっきりしているタイプでつい正直に意見を述べてしまいます。特に公のことに関しては。個人を公に攻撃したりするのはあまり好きではないのですが、制度とか業界のことに関しては黙っていられない面倒な男なのです。ただこれだけは言えることですが、私は日本での利害関係が比較的少ない立場で日本の業界を外から眺め、そして中の事情もかなり理解し得る見通しの良い場所にいるということです。本当に誰が一番だとか、誰が目立っているとかどうでもいいことです。一生懸命に人のために頑張って結果としてそれが評価されて目立てば、それは素晴らしいことですし、それに対して他の人が足を引っ張ったり、出る杭を打つことなど間違ってもしてはいけないことです。もっと多くの人が業界内で色々な団体や学校、テクニックの人と仲良く交流すれば、きっともっと良い業界になるだろうにといつも思います。バランスよく色々な人と付き合うことが自分自身のバランス感覚を磨くことにもなるのです。

私は「マイプラクティス」というセミナーを毎年開催しています。DCであろうと二年制学校の卒業生であろうと、または柔整の先生であろうと参加できますし、アジャストメント・テクニックのセミナーではないので使用するテクニックに関係なく参加できます。皆さんに私が二十数年かけて培って日々行っている診療、ケースマネジメント、患者教育、マーケティング、スタッフ教育など多岐にわたってのトピックをカバーします。これは調べてきたものや借りてきたような内容でなく、私が試行錯誤の末に今現在たどり着いた答えをお伝えするものです。私も今だに、まだまだ日々学習の毎日で新しい気付きもあります。だからこそ楽しくやりがいのある仕事なのでしょう。

今回のセミナーでは急性で重度の腰痛と坐骨神経痛に対して私がどのような診療とケースマネジメントを行っているのかを始め、首のアジャストを怖がっているカイロ未経験の頚椎ヘルニア患者をどのように診療して回復させるのか、患者からの信頼を得るコミュニケーション術、カイロの特異性を用いて他の医療から区別化を図ることで患者を増やす方法、レントゲンの必要性の是非を実例を見せながら考察することなどを含めた幅広いトピックを準備しています。

週末セミナーでの付け焼刃的なテクニックの習得や誰でもすぐ出来るお手軽な魔法のようなうたい文句のテクニックは結局は身につかないし、かえって危険な結果になることは皆さんすでにお気づきでしょう。マイプラクティスはテクニックセミナーではありませんが、それ以上にカイロプラクターとしての意識を高め優れた診療が出来るようになるセミナーだと思います。きっと、このセミナーのあとには皆さんほとばしるようなやる気と今までよりレベルアップした診療が出来ることでしょう。マイプラクティスはDCから無資格のカイロプラクター、そしてカイロを真剣に学びたいと思っている他の医療従事者が等しく一緒に学べる場なのです。このセミナーを機に今までもより上の教育を求めたり、より真剣に勉強をすることを決意をする人が多く生まれています。今まで参加したことのない方は是非参加してみてはどうでしょう。

JACを始め自分たちの所属する団体主催以外のセミナーを関係ないものと決め付けて学ぶ機会を自ら放棄することはもったいないことです。このセミナーでまずは自分の心の垣根を乗り越えてみてはどうでしょう。私は真剣に純粋に学びたいと求める者を拒みはしません。私もこのセミナーを通して皆さんから多くのものを勉強させていただいています。

誰もが参加できる場

今回のマイプラクティスではより多くの方と一緒にカイロを学び、よりカイロを好きになることができると信じています。忙しい毎日のスケジュールをやりくりして参加した甲斐があったと皆さんに言っていただけるように、7日々の診療の後に眠い目をこすりながら一生懸命に準備をしています。皆さんにお目にかかれるのを心から楽しみにしています。来たれ! カイロプラクティックを愛する者たちよ。

<第16回>プラユキ・ナラテボー師 仏教を基盤に精神的にも物質的にも豊かに 上

投稿日:2014年08月26日

カイロジャーナル80号 (2014.06.22発行)より

本誌25周年記念インタビュー

    

本紙「スポーツ・カイロ」の連載や同シリーズ・セミナーでお馴染みの榊原直樹氏とは、東京ではもちろんのこと、札幌や福岡でのセミナーの前後に温泉を楽しんだり、プライベートでジョッキを傾ける機会が最も多いカイロプラクターの一人である。その彼が最近出会い、一瞬にして魅入られてしまった人がいる。タイの僧侶、プラユキ・ナラテボー師である。榊原氏は「彼の話をなんとかできるだけ多くの人に聞かせたい」と熱く語っていた。私は本紙創刊25周年の記念イベントをどう企画するか思案中だったので、「いっちょう、師を呼びますか!」と言ったら、榊原氏は即座に「それ、できますか?」と目を輝かせてきた。企画は夜つくられる、が私のモットーである。ならば本紙面で師を紹介するとともに、25周年記念イベントも予告しちゃいましょう、となり、急きょ榊原氏が師を治療し、その後にインタビューという段取りがセットされた。

治療が終わりインタビュー(実際は対談)となったが、興味深い話に横にいた私もついつい引き込まれ、30分の予定があっという間に1時間を超え、当然1面分にまとめようとしていた原稿は、2面分でも収まらない量になってしまった。そこで今号と次号の2回に分け掲載することにし、今号では、師がどういう考えのもとに仏道を実践しているのかという辺りを、次号では、師が大事にしている「今ここ」「ライブ」と、オープンハートのための五つのポイントなどを紹介する。読みどころ満載である。私もちょこちょこ口を挟んでしまうほど、この業界にもあてはまる話ばかりだった。次号を読むときは、ぜひもう一度今号の記事を読んでからにしていただきたい。年末にはぜひ一人でも多くの人と師の話を聞きたいものである。

【科学新聞社社長 斎藤信次】


プラユキ・ナラテボー師
プラユキ・ナラテボー師

●プロフィール
本名:坂本秀幸
1962年、埼玉県生まれ。タイ・スカトー寺副住職。上智大学在学中よりボランティアやNGO活動に深く関わる。卒業後、タイのチュラロンコン大学大学院に留学。研究テーマは農村開発におけるタイ僧侶の役割。1988年、瞑想指導者として有名なルアンポー・カムキアン師のもとで出家。以後、村人のために物心両面の幸せを目指す開発僧として活動する一方、日本とタイを結ぶ架け橋としても活躍。また、在日タイ人の支援活動にも携わっている。またブッダの教えをベースにした心理療法的アプローチにも取り組み、医師や看護師、理学療養士など医療従事者のためのリトリート(瞑想合宿)がスカトー寺で定期的に開催されている。近年は、心や身体に問題を抱えた人や、自己を見つめたいとスカトー寺を訪れる日本人も増え、ブッダの教えをもとにしたサポートを行っている。また日本にも毎年招かれ、各地の大学や寺院、朝日カルチャーセンターでの講演、有志による瞑想会まで、盛況のうちに開催されている。著書に「苦しまなくて、いいんだよ」(PHP研究所)ほかがある。


【聞き手】榊原直樹

榊原 最初にタイへ行かれたのはどういうきっかけだったんでしょうか?
師 最初は体験ツアーのような形でタイへ行きました。それで、日本とは違ったガスも水道も電気もない村でホームステイ体験することができたのです。そのような体験を通して人生観が一端リセットされ、本当の幸せを求めたいと思うようになりました。どういうことかと言いますと、タイの農村部の生活は一見すると貧困な生活に見えるのですが、村人たちは自然の中で助け合い、とても心豊かに過ごしていました。そこで、「ああ、こういう生活もいいなあ」と思うようになりました。それと同時にタイの仏教にも触れたわけです。タイのお寺が役割をしっかり果たしていていることを知りました。その中には開発僧と言われる僧侶がいて、お葬式やお墓を守ったりという亡くなった方たちのためだけではなく、生きている人たちの悩み苦しみに真摯に向き合い、現実的な社会問題にも取り組んでいく、そういったタイ仏教のあり方に非常に感銘を受けたのです。それでスタディツアーを終えて日本に帰国後、もう少し理解を深めたいと思いNGO活動をすることにしました。
榊原 それはまだ大学生の頃ですか?
師 はい、そうです。まだ在学中でした。帰国してすぐに大学を休学して、またタイへ6カ月間ほど行き、現地調査の仕事をしていました。
榊原 それはどのような調査だったのですか?
師 日本からタイへのスタディツアーを主催して、日本人、タイ人双方にどのような成果が得られるかということや、タイの地方ではどのようなものが求められているのかということ、つまり開発のニーズを調査していました。大きな開発援助は政府レベルで行われていますが、NGOでは村人たちのニーズを調べるというのが主な仕事でした。
榊原 先ほど開発僧という言葉が出ましたが、実際に現地でどのような役割を果たしているのでしょうか?
師 お坊さんというのは、基本的には在家の人たちとは生活スタイルが異なっています。戒律がありますので、村人と同じようには生活できないわけです。しかし、頭蛇修行などで地方へ行ったりして見聞を広めていますので、そういった知識を活用して村人たちを指導します。そのときの指導が仏教的な思想に基づいた開発なわけです。開発と言うと、経済的な豊かさを求めるものというイメージがありますが、もっと根本的な幸せを得てもらえるように指導していきます。そのためには仏教的な思想を基盤に据えることが大事なわけです。
榊原 それは、より精神的な部分について指導するということですか?
師 はい、もちろん精神的な開発は重要です。ただ、貧困の解消など経済的な部分も大切なので、それを方便として活用し、最終的に精神的な幸せの実現へとつなげていきます。例えば、協同組合を設立運営するとしますね。組合活動を通して布施心や他者への思いやりを育んでいくようにします。つまり「これはただのお金儲けじゃないよ」、「皆が力を合わせて協力し合いながら豊かになっていくんだよ」と指導します。農業支援でも、収益を上げることだけを目指さずに、化学肥料や除草剤などを用いずに自然の生き物たちとも共存していける自然農法を教えます。例えば、虫に食われた葉っぱがあっても、「虫へのお布施だよ」というように、どんどん仏教的な考えを盛り込み、村人の心に浸透させていくわけですね。
榊原 日々の生活を通して仏道を実践している感じですね。
師 まさにその通りです。ただ頭で考える仏教でもないし、結果が出ない仏教でもない。生きた仏教を取り戻していくのです。もちろん心にもアプローチしていきますが、物質的な豊かさもちゃんと成り立たせながら、仏教的な考えや生き方を培っていければ、物質的にも精神的にも豊かになっていけますからね。
榊原 葉っぱが虫に食われたら日本では売り物にならない。だから虫を敵対視するようになりますね。
師 そう、それでイライラ、ムカムカと怒りに苛まれ結局自分が苦しむことになります。ですから、根本的にそのようなモノの見方を変え、虫も痛い目に遭わずに済み、自分の心も善なる心で満たされ幸せに生きられるように仕向けていくのです。
榊原 今お話しいただいたことは、日本においても仕事を通じて実践できますね。
師 その通りです。
榊原 カイロプラクティックの仕事でも同じことが言える?
師 はい。仕事に心というものを盛り込んでいけたら、カイロプラクティックで患者さんを施術することが、そっくりそのまま心を豊かにしていく場となり機会となっていきます。
榊原 例えば、苦手な患者さんが来られたときに、どうしても心をポジティブな状態に保ってその方と向き合えなくなります。そして、苦手な患者さんが来ると思うだけで、それがストレスになってしまったりするんです。
師 今、タイでは瞑想に関心を持つ人が非常に増えています。お坊さんに布施をすれば、それによって徳を得て幸せになれる、というタンブン思想というものがかつては主流でしたが、最近は在家の人たちがお寺に来て心を整えていくという流れが出てきています。
榊原直樹
プラユキ・ナラテボー師
榊原 瞑想によって実践するということですね。
師 はい。特に私のお寺で増えているのが医療従事者の方たちです。最近は瞑想の効果も知られてきて、ストレスフルな職場で仕事をする医療者が瞑想に関心を持ってきています。心を整えることにより、仕事で感じるストレスを軽減化し、無駄に苦しまないようになれるからです。それから、身体の治療に来られた患者さんにプラスαを持ち帰ってもらう。すなわち、自ら体験した心安らいで生きていくコツを、患者さんにもお伝えできるようになるわけです。
榊原 なるほど。
師 身体の不調を訴えてやってくる患者さんの治療をするのは医療者の務めですが、それにプラスα、心のケアを提供できたらさらにいいですよね。そんな考え方を持つ医療従事者の方々が実際に増えてきており、私のお寺ではそういったニーズに応えられる教えを説き、瞑想の指導もしています。相手の心を受け止め、また自分の心も受け止められるコツを身につければ、人間関係がスムーズになり、周囲とも、ともに喜び合える関係を築けるようになります。そして自分の心とも対立せずに安定した心持ちでいられます。こうしたことは、誰でもがちょっとした工夫でできるようになります。
榊原 人の心を受け止めるというのは、自然にできるものではないのでしょうか?
師 できたらいいですけどね。
榊原 これは訓練が必要ということですよね。
師 そうです。訓練が必要です。例えば、良いコミュニケーションができている家庭で育ち、自然に身につけている人もいるかもしれません。しかし、そのような家庭というのは稀です。また、幼少時に身につけられなかったから、これからもできないということでもなく、適切な訓練を積めば、人の心をどんどん受け止められるようになり、人間関係もスムーズになっていきます。
榊原 先ほど医療従事者の方々が師のお寺に来られるというお話がありましたが、今お話しいただいたようなことをお寺では指導されたり、瞑想により実体験してもらったりしているのですか?
師 その通りです。もちろん中心は自分自身の心への対応になるわけです。それがしっかりとできるようになると、自然に他者との関係性の中にも反映されてくるのですね。例えば、自身の怒りに対して嫌悪感を持っていれば、怒る相手に対しても反射的に嫌悪感を抱いてしまいます。それに対して瞑想では、怒りが生じてきたらあるがままに観察していきます。すると怒りの奥には自分の願いが叶わなかったがゆえの切なさがあるということに気づきます。その気持をあるがままに受け止め理解していく。すると怒りへの増幅が止まって自身の心に安らぎが生じ、同時に、怒りを示す相手に対しても、「願いが叶わずに切ないんだね。そして怒ってしまっているんだね」と共感できるようになるわけです。
榊原 最初に自分の心との適切な対応がありきで、それができるようになると他者との人間関係に反映されてくるということですね。
師 はい、その通りです。また、外側のこともしっかりやろうね、すると内面にも反映していくよ、ということも伝えています。
榊原 両方あるということですね。
師 はい。こちらは善き意図を持って精進し、正しい行動を繰り返していくということです。例えば、掃除をしっかりと丁寧にやることによって、自分の心も丁寧に扱っていけるようになります。このように両側面から訓練していくことが大切です。それから、心を変えていくにしろ、人間関係を良くしていくにしろ繰り返しが大事ですね。今までの癖みたいなものがありますから、その癖が出てしまい人間関係がギクシャクしたり、自己嫌悪に陥ったりします。それを訓練によって、何度も正しい方向に引き戻す。何度もやっているうちに、闇雲に苦しんだり、関係を悪化させたりすることがなくなって、次第に相手に深い共感を抱いて、自然に慈悲的な行動を取れるようになっていきます。
榊原 最近は日本人の方も師のお寺に行かれているようですが・・・
師 はい。ただ、山奥なのでそんなにたくさん来られるというわけではありませんが、ぼちぼちいらっしゃいます。
榊原 タイ人の方たちの悩みに比べ、日本人が抱えている悩みの特徴のようなものはありますか? 日本のような先進国で生活することによって起こってくるメンタルへの影響を個人的に感じています。また実際に自殺率も高い傾向があります。そういうことからも、日本人独特のメンタルの問題があるのではないかと考えました。
師 タイ人が日本人を評するときに、「クリアットだよね」と言うんですよ。クリアットっていうのは、「考え込み過ぎ」とか「深刻になり過ぎ」という意味です。タイ人は南国気質で、おおらかな人が多いんです。それでクリアットの対義語みたいな言葉に、マイペンライという言葉があり、こちらは「気にしない」という意味です。タイ人はマイペンライ気質があり、水に流してしまうのが得意ですが、それに対して日本人はすぐに拘ってしまう。それから、先進国の人たちはデスクワークの機会が増え、思考の方がすごくパワーアップしていますよね。タイのお寺だったら、蚊に刺されて痒いだとか水運びなどして疲れたとかのような肉体的な問題に対応していくことが多い。しかし、先進国では整った空間の中で、虫などもあまりいないし重労働も少なくなっている。そんななかで、思考が暴走しやすくなるのです。
榊原 思考が暴走する?
師 そうですね。核家族化も進んでいますから、一人で閉じこもっていくらでも考え事ができます。肉体的な痛みとかに頓着する必要がないし、外にはいろいろな情報も溢れている。そういう状況の中、思考が勝手に暴走しても、それをコントロールする技術はまだ持っていないわけです。まるでいきなり普通の乗用車からスポーツカーを与えられて、コントロールできずに事故を起こしてしまうかのようなものです。私のお寺に来られる日本人の中に「地に足がついていないような感じだ」とか、「自分をコントロールできない」などの感覚を訴えてくる人が少なくありません。このような方たちは具体物に触れずに思考が暴走してしまい、妄想の世界の方に臨場感を感じてしまっています。そして、自らの思考で紡いだ恐ろしい物語に圧倒されて心を病み、なかには自殺企図を持つような人も多くなってきているわけです。以前なら社会全体や家族のなかで作りあげる「大きな物語」がありましたが、個の時代になって、そういった物語も描かれなくなり、タガがなくなってきていますから、妄想の世界に入り込んで心が暴走しやすくなっているのです。
榊原 そのような傾向の方はタイ人には少ないということですか?
師 タイでも都会ではそのような問題は出てきていますが、農村部では少ないですね。自殺率で言えば、日本と比較してタイは1/4程度ですからね。もちろん、タイでは交通事故はたくさんあるのですが、逆に日本の場合は「心の交通事故」が増えてきているのではないでしょうか。
榊原 すると、このような資本主義のシステムが発展すると、よりそのような傾向の人が増えてくるということでしょうか?
師 それは、私たち次第だと思います。良きものが広く伝えられれば、減っていく可能性もあります。しかし、そのような知恵や技術がしっかり皆で共有されず、ただただ心が暴走するだけになってしまったら、悪い方向へ行ってしまうでしょう。ところで私自身はというと、それほど悲観していません。私や榊原さんのような人が一人ひとりできることを精一杯やっていけば、その波紋は広がり、きっと良い方向へ向かうと思っています。今のような状況は、人間や社会のさらなる進歩のための可能性を秘めているとも言えます。スポーツカーをちゃんと使いこなして事故を起こさずに運転できる技術さえ持てば、普通の乗用車に比べてより遠くまでより早く行けますよね。すなわち馬力の上がった思考という機能を最大限に活かしてより成熟した社会を作っていける可能性も持っているということです。今がその過渡期でもあるわけです。
榊原 表裏一体ですね。
師 まさにその通りですね。私たちがその機能を適切に使いこなせるかどうかに関わっています。最近も「たかが言葉、されど言葉」というタイトルの記事を書いたのですが、言葉も同様に、使いようによっては人を傷つけてしまいますし、うまく活用すれば人を救ったり、幸せに導いたりもできるわけです。まさに表裏一体、諸刃の剣なんですね。

次号に続く

TBB 1 トータルボディ・バランシング《レベル1》

投稿日:2014年08月17日

tbblv1
Disc1TBBの一般原理
  • はじめに
  • セクション Ⅰ TBBとは?
  • セクション Ⅱ TBBの一般ルール
  • セクション Ⅲ TBBメカにクス
  • セクション Ⅳ 全身評価
  • セクション Ⅴ TBBの治療
  • 全身評価に関する症例レビューの結語
Disc2TBB治療 フェーズⅠ~Ⅴ
  • セクションⅦ フェーズⅠ:TBB仰臥位テクニック
  • セクションⅧ フェーズⅡ:TBB腹臥位テクニック
  • セクションⅨ フェーズⅢ&Ⅳ:TBB側臥位テクニック
  • セクションⅩ フェーズⅤ:TBB座位テクニック
  • 付録:脊椎バイオメカにクス

  


Dr.ケリー・ダンブロジオプロフィールページ

TBBトータルボディ・バランシング《レベル 2 》パートⅠ

投稿日:2014年08月15日

TBB LV2 Part1 part1

※レベル2は(仰臥位、腹臥位)と(側臥位、座位)の二つのシリーズになります。

実技・解説:ケリー・ダンプロジオ

Disc1
セクション Ⅰ 仰臥位アドバンス・テクニック

はじめに
仰臥位アドバンス・テクニック(1)
  • 1.足リリース
  • 2.足首リリース
  • 3.膝リリース
  • 4.股関節リリース
  • 5.恥骨リリース
  • 6.腰椎リリース
仰臥位アドバンス・テクニック(2)
  • 7.胸骨・胸郭リリース
  • 8.胸椎リリース
  • 9.肩リリース
  • 10.頚椎リリース
  • 11.腹部リリース
仰臥位での全身TBBテクニック

Disc2
セクション Ⅱ 腹臥位アドバンス・テクニック

腹臥位アドバンス・テクニック(1)
  • 12.足リリース
  • 13.足首リリース
  • 14.膝リリース
  • 15.股関節リリース
  • 16.仙腸関節リリース
  • 17.脊椎リリース
腹臥位アドバンス・テクニック(2)
  • 18.胸郭リリース
  • 19.上腕リリース
  • 20.頚椎リリース
  • 21.腹部リリース
腹臥位での全身TBBテクニック

  


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TBBトータルボディ・バランシング《レベル 2 》パートⅡ

投稿日:2014年08月14日

TBB LV2 Part2


<レベル 2 >Part2
では側臥位、座位でのアドバンステクニックを紹介します。<レベル 1 >と<レベル 2 >Part1を合わせて習得することにより全てのポジションでのテクニックを可能にします。

※レベル2は(仰臥位、腹臥位)と(側臥位、座位)の二つのシリーズになります。

実技・解説:ケリー・ダンプロジオ

Disc1
セクション Ⅲ 側臥位アドバンス・テクニック(43分)

側臥位アドバンス・テクニック
  • 22.足リリース
  • 23.足首リリース
  • 24.膝リリース
  • 25.股関節リリース
  • 26.仙腸関節リリース
  • 27.脊椎リリース
  • 28.上腕リリース
  • 29.胸郭リリース
  • 30.肩リリース
  • 31.前腕リリース
  • 32.頚椎リリース
  • 33.腹部リリース
  • 側臥位での全身TBBテクニック

Disc2
セクション Ⅳ 腹臥位アドバンス・テクニック(43分)

座位位アドバンス・テクニック(1)
  • 34.足リリース
  • 35.足首リリース
  • 36.膝リリース
  • 37.股関節リリース
  • 38.仙腸関節リリース
  • 39.脊椎リリース
  • 40.胸郭リリース
  • 41.上腕リリース
  • 42.頚椎リリース
  • 43.腹部リリース
  • 44.頚椎リリース
  • 45.腹部リリース
  • 腹臥位での全身TBBテクニック

  


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