2011 2月カイロプラクティックジャーナル

  2011  2月

カイロプラクティック、オステオパシー、手技療法の最新情報、セミナー案内、関連書籍・DVDの販売

カイロジャーナル TEL.03-3434-4236 〒105-0013 東京都港区浜松町1-2-13江口ビル別館

<第18回>正しいものって何だろう?

投稿日:2011年02月25日

変わりゆく人間を認める心持とう
カイロジャーナル70号(2011.2.25発行)より

新しい年を迎えカイロ界の皆さんも気持ちを新たに頑張っていることでしょう。私も今年は更なる飛躍をと張り切っています。日本でもカイロプラクティック統一試験や、統合医療を見据えたDCジャパンなどの活動も始まり、期待を持って見守っています。私はアメリカから日本を見ていますので、当事者の方たちとは違う客観的な立場でそれぞれの動きを見ることができます。日本のカイロ界の方々とお付き合いするようになって、やっと数年が経過したところですが、それ以前の出来事や歴史は人から伝え聞いた範囲でしか知りません。どこの世界でも同じなのかもしれませんが、考えや目的が少し違うだけでなかなか理解し合えず対立し、大事が成せないことが多いようです。

マイプラクティスはカイロプラクターだけでなく、あらゆる治療家やアシスタントに聞いていただいても、非常に有意義なものであると自負しています。倫理的に多くの方に成功していただきたいという願いから、私が普段営むクリニック経営を基に構成した内容になっています。参加していただいた皆さん、それぞれいろいろな気づきや課題を得たことでしょう。それを実際にどうやっていくかが大きな差となるのです。どうか頑張っていただきたいと思います。

多様化こそが自然

人は人それぞれです。家庭にも各家庭のカラー、家風があります。また地方色という言葉があるように、地域によっても習慣、考え方の特色があります。国によってもそうです。ある国では当たり前のことが違う国ではタブーということもよくある話です。それが世界というものなのでしょう。自分が正しい、当たり前だと思っていることでも、ある人にとっては理解しがたいことであることも当然起こり得るのです。

私は日本のテレビ番組が大好きで、よく家族と一緒に観て楽しんでいます。ここ2年ほどのお気に入りは「秘密のケンミンSHOW」という番組で、ご存知の方も多いと思います。この番組ではその地域にしかない独特の習慣や食べ物を紹介します。地元の方へのインタビューのお決まりは「こんなことしてるの、この地域の人だけですよ」「こんな食べ物あるの、日本ではここだけですよ」で、これを言われると県民が「エーッ、ウソー」となるわけです。

誰もが自分が世の中のスタンダードだと思い、他の人も同じだと思い込んでいるのです。国が違えばこのようなことはもっと顕著に現れます。日本が鯨を食べるのを世界の多くの国が理解してくれないのも当然なのです。私はアメリカでの生活のほうが長くなってしまったので、日本で車の運転をするとき法律や規則の違いで戸惑います。一番は踏み切りです。アメリカでは踏み切りで一旦停止することはありません。それはエンストや追突事故の原因となるので、かえって危険な行為になるからです。だから日本でよほど注意していないと何気に踏み切りを走り抜けてしまうことがあります。そうすると母からまるでとんでもない無法者を見るような目で叱られます。同じようなことが実はわれわれの人生のいろいろな局面で起こり得るのです。

カイロの世界も狭い世界とはいえ、様々な考えや立場の人が混在しています。理解し合えないことが多いのかもしれません。ましてやフィロソフィーやテクニックのスタンダードが明確ではないので、それぞれが自分の考えが正しいと一点張りになってしまうと、もうどうしようもなくなってしまいます。BJを神のように崇めている人にはガンステッドのやり方が気に入らないだろうし、ガンステッドを愛する人にはAKが気に入らない、ディバーシファイドの人はアクティベーターが気に入らない、アクティベーターの人はSOTが気に入らないなどと言っていたのでは、永遠に違うテクニックの人たちが協力していくことはできなくなってしまいます。

世の中のほとんどのものが時と共に変化していきます。たとえ永遠に変わらないと思われるものでも実は少しずつ変わっているものです。カイロが115年もの歴史を経れば、現在のように多様化するのは当然のことです。正しいかどうかは別として、非常に自然なことだということです。それを受け入れられない人は現実に目を向けていないということになります。

先人たちも試行錯誤

DDもBJもガンステッドもディジャネットもグッドハートも皆、今はもうこの世にはいません。彼らが残してくれた素晴らしいギフトをわれわれは引き継いでいかなければなりません。同時にその素晴らしい贈り物を発展させていく義務もあるのではないかと思うのです。ある意味ありのままをそのまま変えずに守り続けることは大変です。なぜなら私たちはDDでもBJでもガンステッドでもない別の個性だからです。彼らが本当に考えていたことや感じていた心の中や手の感触を100%同じように理解することなど不可能なのです。そして私たちも、自分で考え感じることができる素晴らしい能力を持っているのです。果たして彼らがわれわれに伝え残してくれたことはすべてだったのでしょうか、彼らでさえ一生模索していたのではないでしょうか、日々新しい発見や気づきの中で生きていたのではないでしょうか? 彼らも私たちと同じ人間です。多くの試行錯誤や失敗の中でいろいろな発見をしたはずです。

彼らがもし今も生きていたとしたら、彼らが旅立ったときと変わらず同じことをそのまま続けているでしょうか、私はそうは思いません。それはとても不自然だからです。彼らほどの想像力と実行力、そしてリーダーシップを持つ人たちが、何十年も新しい発見や試みをせずに過ごすとは到底考えられないからです。きっとまたワクワクするような鳥肌が立つようなものを私たちに見せてくれているはずです、聞かせてくれているはずです。残念ながら現実には不可能なことですが、そんなことを想像するだけで私はソワソワ、ワクワクしてきます。彼らが知り得ることのできなかった様々なことが科学的に証明されたり発見されているのです。その新しい知識を基に、彼らはまた凄いことを考えてくれたのではないかなと思わずにはいられません。もしかしたら当時彼らが正しいと思っていたことを、いとも簡単に訂正するかもしれません。

この世には過去に勘違い、思い違い、間違いを起こしたことのない人などただの一人も存在しません。常に新しいことが科学によって証明され新しい知識を与えてくれるからです。私たちにとってはアンタッチャブルな存在の人たちでも、彼ら自身は素直に何の気取りもなく「あのときはそう思っていたけど新しい発見をした」と嬉しそうに話してくれるかもしれません。私たちが、BJが言ったのだから絶対に正しいと必死になって信じていたことを、彼は笑いながら「いや、そうじゃなかったな。実際はこうかな」などとあっさり否定して、われわれの困惑振りを楽しむのではないでしょうか。真実は誰にもわからないので議論をしても無駄ですが、私はいつもそのような想像をして楽しんでいるのです。

何が正しいかなんて場所や時代で変わっていく生き物のようなものです。自信満々で主張していたことと全く違うことを、ほんの数年後に平気で言っているのが人間なのです。ですから、自分と違う考えを簡単に否定したり拒絶することは非常に危険なことでもあるのです。あなたが正しいと思うのと同じように相手も自分自身のことを正しいと思っているのです。

きっと皆さん、そんなことはわかっているよ、と言われるかもしれません。だけど人間は何かを信じていなければ生きていけません。だから自分の信じる道をひた走るのです。時にその愚鈍なまでの一途さが世の中を変えたり、大きなことを成すので一概に悪いこととは言えないのも確かです。相手の考えや気持ちを理解するという柔軟性と、自分の信じることをやり通すという一途さがバランスよく噛み合えば最高でしょう。

未来を明るくする

私の大好きな坂本龍馬は、日本を変えるという誰よりも熱い一途な気持ちを柔軟な考えと行動力で、理解し合えない人たちを結びつけることによって成した人です。そんな龍馬でさえ、彼の行動を正しいと思えない人たちによって暗殺されるのが人の世です。今年はカイロ界の仲間がそれぞれの思いや信念を大切に持ちながらも、いろいろな考えの人を理解し認める気持ちを持って、カイロの未来を明るく変えるという大きな目標のために手を取り合って欲しいものです。

血を流さなければ世の中は変わらないのでしょうか? 皆さん一人ひとりが龍馬になって、争いをせずに相手の立場を考えて仲良く世の中を変えていく、そんな努力を惜しまない人になってくれるように期待しています。そのためには自分には厳しく人には優しくという、人間として最も基本的なことが大切になってくるのではないでしょうか。それが実は結果的に自分を幸せにするツールでもあるのです。「明るい未来」、いい言葉です。それを可能にするのは皆さん自身なのです。自分の「正しい」を主張するだけでなく、相手の立場をお互いが考えられるカイロ界にしていきましょう。

<第19回>「ガーデンホース・セオリーで根性痛を説明できるか」

投稿日:2011年02月25日

カイロジャーナル70号 (2011.02.25発行)より

カイロプラクティックでは、「ガーデンホース・セオリー」や「ナーブピンチング・セオリー」として神経圧迫理論が構築されてきた。庭に水を撒くときのホースを神経とみなし、その中を流れる水を電気信号に例えている。椎骨の位置異状によって椎間孔の狭小化が起こると、神経が圧迫されるとするものである。

この理論は、長い間カイロプラクターの治療の根拠にされてきた。この根拠が否定されるようになったのは、米国ナショナル・カイロ大学でのある実験結果だったようだ。実験動物の犬を使い、椎間孔が狭窄されるまで椎骨を動かしても、終には椎骨が脱臼するまで動かしても、神経の伝達速度は著名に変化しなかった、という結果の報告である。

それもあってか、今ではサブラクセーションなどによる神経圧迫説は脈管系の循環障害によるものと変化している。椎間孔を占める組織は、神経、動脈、静脈、リンパなどで、そのうち神経の占める割合は3分の1ほどである。そう易々と椎間孔自体の狭窄が起りうるものでもない。ところで、圧力に対しての感受性は静脈において顕著であるとされている。静脈に変形をもたらす圧力は、5~15mmHg(A4のコピー用紙を2mの高さから地面に落下したときの圧力)だという。これはロサンゼルス・カイロ大学で解剖学教授を務めた経歴を持つDr.トランの報告である(『疾患別治療大百科 シリーズ3頚肩腕痛』P176-177)。

サブラクセーションが長期化し、この椎間孔での可動性が減少すると、圧力に対する感受性の強い静脈は変形する。結果的に、静脈内の血漿は更に血管外に滲出することになる。この現象がリンパや動脈への圧力を高めることになり、最終的に神経根が圧迫されるのだとする。こうしてカイロプラクティックの神経圧迫説は、その仕組みを変えてきている。

しかし、どんなに神経圧迫の実態を変えてみようとも、神経根が圧迫されたことで根症状が発症するとみる説に変わりはない。問題にすべきことは、なぜ神経や神経根の圧迫が下行性に痛みとして認知されるのか、という生理学的機序なのである。結局、カイロプラクティックが説いたガーデンホース・セオリーでは、根性痛などの神経圧迫による痛み症状を裏付ける理論的根拠には成り得ていない。


<第18回>「根性痛は本当に神経因性疼痛なのか」

投稿日:2011年02月25日

カイロジャーナル70号 (2011.02.25発行)より

なるほど、根性痛は侵害受容性疼痛ではなく神経因性疼痛である、というわけだ。確かに、神経根も後根神経節(DRG)も受容器ではない。では神経因性疼痛とは何か。それは神経系の一次的な損傷やその機能異常が原因となる、もしくはそれによって惹起される疼痛のことである。

その定義するところによれば、「主な機序が末梢神経ないしは中枢神経系の知覚異常にある疼痛」(『臨床痛み学テキスト』P408)とされている。神経因性疼痛は、神経に対する直接的な損傷によるものであり、疾病であり、機械的な圧迫などにより痛覚伝導系自体が障害された病態なのである。神経系の原初の「傷」が引き金になる神経系における知覚系の疾患というわけだ。その原因も、中枢神経系にあるものと末梢神経系にあるものがあり、慢性痛症の一つに分類されている。

神経因性疼痛には、ボルタレンやロキソニンなどのNSAID(非ステロイド性消炎鎮痛剤)の効果はあまり期待できないとされる。にもかかわらず、臨床の現場では神経根症にこれらの薬が処方されている。おかしな話だ。

それだけではない。オピオイドも決定的な薬物ではなく、内因性の疼痛抑制系も期待できない。いわゆる治療困難な痛み系の一つなのである。当然、治療後に症状が消えることも稀である。慢性の経過を辿る治療困難な痛みとして、ヘルスケア上の重大関心事とされている疾患なのである。

さて、根症状の痛みは本当に末梢神経感作の神経因性疼痛なのだろうか。神経因性疼痛の病態生理学的機序として、次の5つの基本的要件が挙げられている(『臨床痛み学テキスト』P409)。
  1. 痛み感受性のあるニューロンへの直接の刺激
  2. 損傷された神経の自発性発火
  3. 中枢神経系の感作と求心路遮断による神経系の再構築
  4. 内因性の疼痛抑制系の破綻
  5. 交感神経依存性疼痛

これらの要因の一つから複数が関与するとされる。その根性痛と神経因性疼痛の関連を考える上で、上記の病態生理学的機序に関わる要件1.の「ニューロンへの直接的刺激」と、要件2.の「損傷された神経」の2点に注目したい。

確かに、後根神経節(DRG)は刺激に対して感受性が高い組織で、痛みとの関係に注目が集まっている。しかし、菊地教授も自著の中で、神経根の「機械的圧迫の存在が即、疼痛の原因を意味するわけではない」と述べているように、機械的圧迫には関連する複雑な要因が絡んでいると見ているようである。ましてや、椎間板の圧迫が神経根に傷をつけるとも考えられない。

そこで浮上してくるのが、椎間板由来の髄核液性成分が起因物質となって根症状を引き起こすのであろう、とする仮説である。それも病態解明はまだされていない。必要なことは、その髄核の液性物質が後根や易感受性の細胞体とされるDRGにおいて神経根炎を引き起こすか否かという検証である。

髄核から液性物質が流出し、吸収されるまでに1カ月程度かかると見られている。このことは椎間板ヘルニアによる根症状とされる痛みが、好転する時期と符合しており、そのことも神経根炎が起こるという仮説を後押しする理由のようだ。それには、神経根炎であることを証明しなければならない。「正常な脊髄神経根の圧迫は痛みを生じない」というのは、学者間の共通した認識である。そうかと言って、根性痛とされる痛みを神経因性疼痛とする根拠も希薄である。

では、百歩譲って神経因性疼痛だとしよう。だとすれば、それはカウザルギーということになるのだろう。神経因性疼痛の分類では、CRPS(complex regional pain syndrome:複合性局所疼痛症候群)である。これらは神経の切断や末梢神経の外傷後に起こる神経障害で、交感神経機能障害による血管運動神経と発汗の異常を伴い、持続性の灼熱痛と組織の栄養障害が認められる疼痛症候群である。

どう考えても、臨床の現場で見聞きするヘルニアの症状とはあまりにもかけ離れている。もしも異所性発火とするならば、根部で痛み信号を発しているのに、脳は下肢からの発信と誤認していることになる。それなのに、なぜ末梢の筋・筋膜に圧痛点が存在するのか、大きな疑問である。

そして何よりも、カイロプラクティックなどの徒手療法が根症状とされる痛みに効果的なのはなぜだろう。根症状を神経因性疼痛とするには、あまりにも実態と違っていると思わざるを得ない。

カイロプラクティックの臨床でも比較的多く見られ、世間的にもポピュラーな疾患が、難治性の神経因性障害であるとは信じがたいことである。それでも、根疾患を神経因性疼痛だとするならば、カイロプラクティック手技がどのような機序で神経因性の疾患に影響を与えているのか、その理論構築を仕直さなければならないだろう。


<第17回>「異所性発火(放電)とは何か」

投稿日:2011年02月25日

カイロジャーナル70号 (2011.02.25発行)より

神経の伝導信号は電気的な発火(活動電位)に依存している。本態は膜電位の急速な変化によるもので、そのルートは受容器と脳を結んでいる。上行性には感覚が伝えられ、下行性に運動がもたらされる。その活動電位は膜のイオンチャンネルに依存した静止段階(-40~90mVの陰性膜電位:分極)からの脱分極(陽性方向への立ち上がり:活性化)と再分極(正常な陰性の静止膜電位の再獲得)の2つの段階がある。

侵害受容器に閾値を越えた刺激が加わると、その信号は脱分極と再分極を頻発しながら脳・中枢に向けて上行する。これは正常な信号の発火伝導であるが、異所性発火はこの正規の生理学のルートを辿らない。受容器からの信号とは無関係に発火放電が起こる。

故・横田敏勝教授(滋賀医科大学)は、『痛みのメカニズム』で次のように解説している。「痛覚受容器を介さずに神経線維からインパルスが発生することを異所性興奮という。異所性興奮が生じる可能性が高いのは、脱髄部および傷害された末梢神経の側芽と神経腫である(p211)」。

異所性興奮のキーワードは、何と言っても「発芽」や「神経腫」といった現象であろう。「発芽」や「側芽」といった現象は、切断や傷害された末梢神経を修復する機転としての神経の伸長現象でもある。「神経腫」は、末梢神経の切断によって近位端と遠位端に近い部位で軸索の崩壊が起こる変性である。また脱髄は、有髄神経線維が長期間にわたる圧迫に晒されたことによって起こる現象であるが、主に運動線維と骨格筋の反射調節に関わる筋求心性線維などが障害される。したがって麻痺や異常感覚の徴候がみられる。ただし、Aδ侵害受容線維の脱髄部にNa+チャンネルが発現すると自発的に興奮し、痛みなどの異常感覚が生じるとされている。

では、Na+チャンネルはどのようにして発現するのだろう。末梢神経が切断・脱髄や傷害されると、後根神経節で各種のイオンチャンネル(中でもNa+チャンネルが重要)や変換チャンネルが合成される。この切断および傷害された神経線維では、修腹機転として損傷部位に「膨大部」や「発芽」現象が起こるわけだが、その軸索の膜にDRGで合成されたチャンネルが嵌め込まれて広がる。こうして異所性興奮としての痛みが起こる。

要するに、異所性興奮は末梢神経の切断を含む傷害に伴うスパイク放電のことで、その病態は神経原性の痛みであることがわかる。さて、菊地臣一教授は根性痛とされる末梢性の痛みを、この「異所性発火」にその機序を求めているのである。


<第1回> フィクセーション モデル

投稿日:2011年02月25日

カイロジャーナル70号 (2011.2.25発行)より

フィクセーションとは正常な可動域を欠く椎骨または骨盤とでもいうのであろうか?我々カイロプラクターはその技術の習得に勢力を注ぐ。しかし、我々は本当にフィクセーションを理解しているのだろうか?カイロプラクティックでは、科学、技術を重視する。技術ではモーションパルペーションの習得であるが、科学の面でフィクセーションの説明があまりはっきりしていないような気がするのは、私だけであろうか。そこで、私なりにフィクセーションの科学を提唱したいと思う。

正常な可動域を制限するものは何であろうか?
  • 筋の硬縮?
  • 関節の硬縮?
  • それとも滑液の硬化?

簡単に考えると3つの可能性が考えられる。

筋の硬化は、アジャストメント対象にはならない。なぜなら、筋は筋紡錘、ゴルジ腱器官などの神経受容器によりコントロールされている。恐らく、これらの異常により硬化(過緊張)していると考えられる。このような状態で、フィクセーションを改善するようなスラストを加える場合、その硬縮した筋が伸ばされるような方向に力が加わることになる。この操作のため硬縮した筋はストレッチされることになる。筋に関して圧倒的に理解が進んでいるアプライド キネシオロジーでは、筋のストレッチは筋の硬縮を助長することはあっても、弛緩させることはないという。これも理解できる。筋をストレッチすることは、筋紡錘、ゴルジ腱器官をストレッチすることになる。筋紡錘がストレッチされることにより起こる反応は、筋の収縮である。反対にゴルジ腱器官をストレッチすることにより起こるのは筋の抑制、弛緩である。しかし、ゴルジ腱器官を興奮させて、その抑制作用が起こるのは、筋組織の損傷が起こるほどの過剰なストレッチである。恐らく、このようなストレッチを加えるためには、関節の靭帯損傷が起こる可能性は非常に大きいであろう。ストレッチがよいとされる理由は、私には理解できない。唯一、効果的であると考えられるのは、筋膜の短縮に対してである。結合組織である筋膜は、ストレッチにより伸張される可能性がある。これはストレッチの方法によってもその効果は異なると思われる。直接法、間接法などどちらが効果的なのか、などの論争はよく耳にするが、この筋の硬縮による可動域制限であれば、間接法の有効性も理解できる。後に述べる靭帯や滑液によるモデルの場合、間接法の有効性は考え難い。以上のことから、フィクセーションが筋の硬縮によるものとは考えにくい。少なくとも、スラストを必要とするフィクセーションとしてあてはまることはないであろう。

次に、靭帯の硬縮である。靭帯の硬縮はアプレジャーの頭蓋テクニックでいわれているモデルである。結合組織の短縮で説明できるであろう。結合組織、硬膜や靭帯など、ほぼその組成は似ている。基本的に、線維性組織であるコラーゲンとこれらの間、間質を満たすムコ多糖類である。ムコ多糖類はゲル状の液体であり、ある程度の粘性を持つ。結合組織である靭帯の硬縮はこのムコ多糖類の粘性が増加した状態である。これは、結合組織に圧縮の力が加わり、ムコ多糖類がその濃度を上昇させた状態、水分が減少した状態である。この粘度が増加した液体がコラーゲン組織の間の間質を埋める場合、コラーゲン組織の弾力性を制限することになる。これは、関節包を構成する靭帯の硬縮を誘発するものである。セミナーでフィクセーションはどうしてできるのですか?という質問を受けることがある。その答えの一つは、靭帯、結合組織の圧縮である。コラーゲンの圧縮は単に線維組織を圧縮している状態で伸ばそうと思えば伸びる。これは、ばねを想定していただければよいと思う。しかし、圧縮されたムコ多糖類は周囲の組織からの水分の流入を待たなければならない。これが縮んだばねの間を縫ってムコ多糖類に届くのは、短時間の間には難しいということになる。このタイプのフィクセーションでは、スラストやストレッチによりそのムコ多糖類の粘度の低下を誘発することが可能であると考えられる。したがって、結合組織、靭帯で構成されている関節の硬縮により起こる可動域に対して、スラスト、ストレッチは有効であると考えられる。ちなみに、椎骨では、靭帯は関節包だけではない。前縦靱帯、後縦靭帯、黄色靭帯、横突間靭帯、棘間靭帯なども同様である。

結合組織(コラーゲンとムコ多糖類)。左が正常、右が圧縮

結合組織(コラーゲンとムコ多糖類)。左が正常、右が圧縮

最後に滑液による可動性制限である。前述した靭帯の硬縮と併発するケースが多いと考えられるが、仮に、靭帯の硬縮がないとすると、可動域の制限を起こすものは、閉ざされた関節包内に含まれる滑液の粘度の上昇である。この原因も圧縮である。関節が圧縮された状態が長時間続くと、水分は、関節包そのものやその周囲の脈管を含む組織に分散され、液体はその粘性を増し関節包を伸長するような動きを制限することになる。これは、スラストのときに、関節包を伸長することで陰圧になり、矯正音を起こす原因と考えられる。

関節包、靭帯、滑液の硬化によりフィクセーション(矯正対象となる)が起こるということになるが、その多くの原因は、圧縮である。これは重力によるものでもあるが、一つの部位に過剰な圧縮が加わることによるものである。これは不良姿勢による脊柱の一部への加重の増加や脊柱周囲の筋の硬縮により圧縮力が加わることによっても起こる。

脊柱の彎曲増加により圧縮を受ける部位

脊柱の彎曲増加により圧縮を受ける部位

これが理解できれば、フィクセーションが起こる可能性が高い部位を推測する事は容易である。圧縮されているところである。例えば胸椎の後弯が増加している場合、脊柱のみで考えれば、圧縮されている部位は、脊椎後部の組織ではなく、前部、椎体周囲の組織である。頚椎、腰椎で、前弯が増加している場合では、脊椎後部の組織、関節包や横突間靭帯、棘間靭帯、黄色靭帯、関節包などの硬縮が起こる可能性が高い。逆に伸長されている部位は、これらの逆で、胸椎では、脊椎の後部、頚椎、腰椎では前部である。

よく見る頚椎のスラストで、この理論と反するものがある。過伸展している頚椎に対して進展した状態でスラストを加える事は、伸長された靭帯を伸ばすことになる。過伸展している頚椎は、屈曲位でスラストすることにより、後部の短縮した組織の柔軟性を回復することにつながると考えられる。モーションパルペーションにおいても、屈曲位でモーションパルペーションを行う場合、脊椎後部の組織の硬縮による制限、伸展位では前部ということになる。

このような理論を考えることで、今までのモーションパルペーションが、また新たな有意義な検査法になると思う。簡単な組織学と我々が日常行っているマニピュレーションを結びつける。それは有意義なことであると確信している。

さて、次の段階はフィクセーションと傷害部位との関係である。フィクセーションがある部位が痛みを起こすという考え方は大間違いである。したがって、痛みのある部位に靭帯組織を伸ばすようなスラストを加える事はない。

カイロジャーナル70号

投稿日:2011年02月25日

70号(11.2.25発行)
DCジャパン発足
セミナーは今後も継続
JCR、初の統一試験実施
キネシオテープ創始者 加瀬建造DCが米カイロ誌に登場
「カイロは腰痛治療の定番」
「カイロプラクティック&オステオパシー」から「カイロプラクティック&マニュアル・セラピー」へ

facebook公式ページへのリンク

長期連載中の記事

過去の連載記事