2010 11月カイロプラクティックジャーナル

  2010  11月

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<第17回>今後のカイロ業界への期待

投稿日:2010年11月03日

無資格者を尊重した教育課程必要
カイロジャーナル69号(2010.11.3発行)より

皆さん暑い暑い日本の夏をやっと乗り越え、ようやくやって来た涼しい秋に、ホッとしている方も多いのではないでしょうか。9月の終わりには、東京で『マイプラクティス2』というマネジメント・セミナーとソウルナイトを久しぶりに開催し、とても楽しい一日を過ごしました。

マイプラクティスはカイロプラクターだけでなく、あらゆる治療家やアシスタントに聞いていただいても、非常に有意義なものであると自負しています。倫理的に多くの方に成功していただきたいという願いから、私が普段営むクリニック経営を基に構成した内容になっています。参加していただいた皆さん、それぞれいろいろな気づきや課題を得たことでしょう。それを実際にどうやっていくかが大きな差となるのです。どうか頑張っていただきたいと思います。

無資格でも立派な人

ソウルナイトは業界内の学派、協会、テクニック、学位などの壁を取り払って、時には一緒にカイロの素晴らしさを語り合おうという目的で行われています。実際に、ソウルナイトでの出会いでアメリカ留学を決心したり、よりレベルの高いカイロの勉強をしたいと思う人も増えています。業界内の倫理観やレベルアップにもつながれば嬉しいことです。

しかし、業界内を見回しますと、溝がなくなるどころか益々深くなっているような部分もあるので複雑な気持ちです。いろいろな人がいろいろな主張をするのは、どの世界でも同じなのかもしれませんが、ある一点どこかでみんなが結びついているかどうかが、その業界の地力の差になってくるように思えます。

最近、JACによる無資格者に対するテクニック・セミナーの取り締まりが厳しくなりました。JACの主張ももっともなことで、無資格の者がカイロプラクターを名乗るのは将来的にはやはり問題があると思います。しかし、この国のカイロを支えてきたのは、無資格のカイロプラクターたちだということも否定できない事実です。DCを取得した先生方の多くが無資格カイロプラクターのご子息でもあります。

私がLACCに入学する際に推薦状を書いてくださった方も、日本の無資格のカイロプラクターの先生です。とても人格者で知識や技術が優れていた上に、アメリカのDCたちとのつながりも強い方でした。残念ながら既に亡くなられましたが、その先生のことは今も尊敬していますし、とても感謝しています。

昔から日本へ帰国したDCの方々が、私塾のようにして学校をつくり、人々にカイロを伝え生計を立ててきました。そこからさらに多くの無資格のカイロプラクターが排出されたわけですが、そのことさえ私は責める気持ちにはなれません。日本ではカイロが法制化されていないんですから、本当は国際基準の学位を持っていようがDCを持っていようが、全員無資格なのです。少なくともそれが世間一般が見るカイロプラクティックです。

そのような社会でカイロを根づかせようとしたら、伝える相手が無資格者と呼ばれることなど、当たり前過ぎて気にすること自体ナンセンスな時代だったと思います。アメリカでは、DCという学位だけでは患者をアジャストすることもできないし、カイロプラクターの名刺さえつくってはいけません。NBCEの国家試験、そして州の開業試験に合格して、初めてライセンスを取得し公にカイロプラクターだと名乗れるのです。ライセンスがなければ無資格者なのです。

私は日本のカイロプラクター全員が、国際基準を満たした教育を受けるべきだという考えには大賛成です。ただ日本のカイロプラクティックの特殊な歴史や環境も考慮し、既に無資格のカイロプラクターとして何年も生計を立てている人に、現実的な教育プログラムを提供できないものかと思うのです。もちろん一生懸命頑張って取得できるレベルの内容でなければなりません。

難し過ぎは考えもの

また一方で、いたずらに難しくし過ぎることも考えものです。アメリカでさえ初期のDCの教育は日本の短期のカイロ学校より劣るものだったと思いますし、何十年もかけてようやく現在のレベルに至ったのです。NBCEのテストに合格するのはとても大変なことです。テストに合格するための特別な集中講座などがあるくらいですから。今のNBCEのテストを、50年前にアメリカのカイロ大学を卒業した方が受験したら、合格する人はほとんどいないでしょう。

JACの会員の中でも、NBCEのテストに合格している人はそんなに多くないと思います。将来的には他のカイロ先進国と同じように、NBCEを取らなければ無資格というところを目指しているのでしょうが、学校を卒業して何年も経った人が簡単に受かるような試験ではありません。ましてや仕事や家庭がある方には大きな犠牲が必要になってしまいます。

日本の社会で、まだ法制化もされていない現時点でそんな努力ができる人は一体どれだけいるのでしょう。難しい問題です。だからといって諦めて知識、技術、倫理観のない方を野放しにしていては、真面目に努力している人が迷惑しますので、日本なりの基準で資格を定め、緩やかにWFCの国際レベルへと追いつくように発展していけばいいと思います。

この国にカイロプラクティックを広めたのは、無資格のカイロプラクターだったということを尊重しなければならないと思うのです。彼らの努力に敬意を持ちつつ業界を新たなレベルへと導いて欲しいものです。その道は険しいことでしょうし、多くの壁にぶつかるでしょう。自分たちのレベルに見合わない人たちを切り捨てたり排除するのではなく、そういった人の中でも真剣にやる気のある方を導いてあげられることを願っています。

なぜならいくらJACが彼らを認めないと頑張ったところで、彼らは決して消えていなくなるわけでもなく、日本が法制化されていない以上、カイロプラクターを今まで通り名乗っていくのですから、どうせなら彼らに立派なカイロプラクターになってもらったほうが、業界発展のためにプラスになると思うからです。

異国から願うこと

今までこのような議論は幾度となく行われては消えていったのでしょう。異国で暮らす私には、全く関係のないことと言ってしまえばそれまでなのですが、私が敬愛する多くの仲間が生きていく日本の業界が、少しでも幸せな業界になって欲しいと願うのです。自分だけ良ければ、幸せなら、それでいいとはとても思えません。同時に、私には守らなければならない家族やスタッフ、そして患者たちがいるので、今以上に日本の皆さんのお役に立つことは、現実的には無理だという葛藤の中で苦しむこともあります。

しかし私にできる範囲で、日本の業界のお役に立つことができないかと考えたとき、マイプラクティスやソウルナイトで皆さんの意識レベルやモチベーションを高め、倫理的で正しいカイロプラクティックを目指していくようにメッセージを伝えたいのです。正しいカイロとは狭い意味ではなく、アメリカのように大きな許容範囲を持ってWFCで認められているあらゆるテクニックを含みます。

日本のカイロ業界が強く力を持った団体にならないと、やがて他の医療につぶされてしまうと思います。医師以外による一切のカイロプラクティック治療が違法だと禁止されるかもしれません。そんな危うい状況の中で、今まで日本のカイロは先人たちの努力のお陰で、どうにか生き延びてきたのです。カイロプラクティックを愛する者同士で喧嘩するのではなく、仲良く力を合わせ未熟な者や資格のない者がいたら、みんなで手を差し伸べて頑張って資格を取れるような制度をつくらなきゃいけないと思うのです。

資格がない人を排除するのではなく、その人たちがどのようにすれば、資格を取れるかを考えてくれる業界になって欲しいと思います。そのためにも日本を代表するJACの責任は非常に重く大変なものになってくるのです。でもそれを成し遂げたら、どこの国のどの団体よりパワフルで優しく温かい魅力的な団体になるでしょう。そして業界の一人ひとりが自分のことだけを考えるのではなく、業界の未来と発展のために必死に頑張って、自分をより高いレベルへ成長させていく強い意志と努力が必要なのではないでしょうか。少数のエリートだけの団体では日本の業界を変えていくパワーはないと思います。もっとたくさんの仲間の力が必要なのです。

排除せずに温かく

日本の業界の歴史を部分的にしか知らない、日本で仕事をしていないのに、JACの皆さんが今までどれだけ努力してきたか知らないとお叱りを受けるかもしれませんが、私が今の日本の業界を見て思うところを素直にお伝えしました。そして、私がJACや日本の業界に寄せる大きな期待もご理解願いたいと思います。

もっと国際基準を満たすカイロプラクターを増やすためには、既存の無資格者が国際基準を満たす教育を受けられる極めて現実的なプログラムの構築が絶対に必要になると思います。国際基準があまりにエクスクルーシブな資格とならないように、誰もが努力すれば取得できるようになって欲しいのです。

そして既存の短期学校を拒絶するのではなく、温かく温かく温かく指導し、国際基準の学校へと成長させて欲しいです。それまでは短期の学校を卒業した者が、始めからやり直しではなく、厳し過ぎず上手く編入できる資格取得プログラムができることを願っています。日本のような特殊な歴史を持つカイロ社会では、それに見合った資格制度と発展の仕方があって然るべきだと私は思うのです。そしてそれをWFCに認めさせることも大切な仕事だと思います。それが私が期待する今後の日本のカイロ業界なのです。

<第16回>「神経根の圧迫で、痛みが起きるか起きないか」

投稿日:2010年11月03日

カイロジャーナル69号 (2010.011.3発行)より

ここまで、痛みの受容器とその伝導経路を辿ってきた。近年の痛みに対する概念的変化には、十分な注意を払う必要があるだろう。痛みの概念的理解がなければ、痛み治療の臨床に反映させることができないからである。

神経根症もその1つで、生理学者と臨床医の見解には微妙な違いが見受けられる。医療の現場では、上下肢痛を伴う頚部痛や腰痛患者の多くが「根疾患」とされている。一方、生理学者は「痛みの入り口は痛覚受容器である」とする。この生理学的原則に反する痛みは、神経自体の損傷又は神経的な疾患あるいは可塑的な神経の歪みになる。

再三述べてきたように、痛覚受容器がある神経終末は、筋・筋膜、粘膜、靭帯、動脈など、身体中のあらゆる軟部組織に存在する。そうでなければ警告系としての痛みシステムを保てない。

受容器が侵害された部位が痛みの「第1現場」であり、痛みを認知する脳での部位が痛みの「第2現場」である。第1現場での侵害情報は脱分極を繰り返して電気信号として上行し、脳の第2現場に届く。これは生理学的な原理原則論であるが、だからと言って侵害受容感覚は痛み症状ではない。

そうなると、神経根症の説明に使われる機械的圧迫説には、「アレッ」と思ってしまう。例えばL4-5間で、「神経根が侵害されているために下肢痛が起きている」としよう。侵害されたのがL5神経根であるならば、侵害部位の情報は脱分極による痛み信号に変えられて、脳で侵害部位での痛みとして認知されることになる。

ここで問題となるのは、侵害部位であるL5神経根から下肢への下行する痛みの認知は、どのような生理学的機序に基づいているのか、ということである。ここに2人の専門医の見解がある。著名な2人の説に学びながら、神経根症なるものの病態を考えてみたい。

その1人は、Karel Lewit,MDで、プラハのチャールズ大学で神経学を教えている。ヨーロッパからアメリカに至るまで広い地域で活躍し、手技療法の分野に大きな影響を与え続けてきた人でもある。Dr.Lewitは、オステオパシーやカイロプラクティック界とも深い縁を持つ。カイロプラクティック学術誌「JMPT」の編集委員としても迎えられ、その発展に寄与したことでも知られている。その著『Manipulative Therapy in Rehabilitation of The Locomotor System』は8カ国語で出版されている(邦訳「徒手医学のリハビリテーション」)。その中で、次のように述べている。

神経根が実際に力学的に圧迫された場合、「神経の圧迫は単独でも不全麻痺や感覚消失を引き起こしはするが、痛みは起こさないことを指摘しておくべきだろう」と前置きして、根疾患の決定的な証拠について「知覚減退、痛覚減退、弛緩や萎縮を伴う筋脱力、特発性筋興奮性の亢進、腱反射の低下など」の神経学的な欠損がなければならない。こうした神経学的に決定的な証拠が挙がっていなければ、根性疾患と決めるわけにはいかないと述べている。さらに続けて、このような神経学的欠損以外では、「疼痛や異常感覚が足指あるいは手指にまで放散し、脚全体が痛むような印象や骨が痛むような感じがある場合、伸展下肢挙上テストが45度以下の場合」も根疾患の視野に入るとしている。

もう1人、日本を代表する整形外科医の福島医大付属病院長・菊地臣一教授は、近著「腰痛」の中で神経根障害の発生に触れ、機械的圧迫の意義について著述している。神経根を圧痕する頻度は、加齢とともに増加している。ところが、神経根障害の有病率は年齢とともに減少しており、このことは神経根障害が神経根の圧迫だけでは引き起こされないことを強く示唆するものだとしている。

その上で、圧迫性神経根障害の病態を2つに分けている。つまり、「麻痺性」と「疼痛(腰痛と下肢痛など)」である。ここで問題となるのは、同じ病態に生理学的には全く反対の現象が起こるとしていることである。

では、その下肢痛はどのようにして起こるのか。

菊地教授は後根神経節(DRG)の特徴に着目し、神経根性疼痛に重要な役割を果たすのだとする。そしてDRGの3つの特徴を挙げて、その根拠としている。すなわち、DRGは1.一次性知覚神経細胞を持ち、サブスタンスP、CGRPなどの神経ペプチドを産生し、疼痛伝達に重要な役割を果たしていること。2.神経根自体よりも機械的刺激に敏感であるため、わずかな刺激で異所性発火を生じること。3.神経-血管関門のない組織で血管透過性が亢進しており、軽度の圧迫でも浮腫が生じやすいこと、である。

菊地教授は、根性痛による末梢性の痛みは「異所性発火」と結論づけているが、神経根が完全に圧迫される前にDRGが刺激されて「異所性発火」が起こるという説であろう。

両教授がともに、根性疾患は基本的に痛みではなく麻痺性の病態であることを認めているが、その一方で神経根圧迫に伴う痛みについては諸説があり、検証されるべき病態なのである。


<第15回>「なぜ、クレニオパシーや末梢刺激は、脳内鎮痛系を賦活させるのか」

投稿日:2010年11月03日

カイロジャーナル69号 (2010.11.3発行)より

オピオイドペプチド(リガンド)が生体のどこに多く存在するかを究明できれば、その部位が鎮痛経路における内因性オピオイドによる鎮痛系の成分ということになる。だが内因性オピオイドペプチドの伝達は、体液中の化学受容器として働く「脳-血液関門」によってバリアが張られている。だから体内に注入しても脳には届かない。

このことは脳内にさらなる作用部位が存在する証拠となった。やがて中枢神経系内にβエンドルフィンや、エンケファリンを産生するニューロンがわかってきた。このニューロンが興奮すると、軸索突起の終末部から脳内や脊髄内に、内因性オピオイドペプチドが放出されるような仕組みになっている。

さて、その代表的な内因性オピオイドペプチドであるβエンドルフィンをつくるニューロンは視床下部などにあり、視床下部からは大脳辺縁系や脳幹のいろいろな部位に神経線維を伸ばしている。

視床下部弓状核のニューロンから中脳中心灰白質に送られる神経線維が刺激されると、βエンドルフィンが遊離されて下行性疼痛抑制系が賦活する。

下行性痛覚抑制系は3つの部分から成り立っている。

1つは中脳(中心灰白質)で、次が延髄(大縫線核)、そして3つ目が脊髄後角である。中脳のシルビウス水道周囲、橋上部の水道周囲灰白質、脳室周囲、第3、4脳室隣接部からの信号を、大縫線核(橋下部と延髄上部にある正中核)と網様核(延髄下部にある傍巨大細胞)に送るのである。

さらに、これらの核から脊髄の後側索を下行して脊髄後角に位置する痛覚抑制核群に伝えられる。また、青班核からはノルアドレナリンが脊髄の前側索を下行し、この2つのルートによって痛み信号が上行性に伝達される前に遮断する機序が働くことになる。

この下行性疼痛抑制系の活動を中脳で持続的に抑制しているのがγアミノ酪酸(GABA:抑制系のアミノ酸)で、この作動性ニューロンをβエンドルフィンが抑制する。エンケファリンは大脳皮質から脊髄まで、中枢神経系内のいろいろな部位に分布しているとされるが、特に中脳中心灰白質のニューロン細胞体はエンケファリンを産生して抑制系に積極的に関与している。

つまり抑制系を抑制しているGABAを、βエンドルフィンやエンケファリンが抑制しているわけで、この「脱抑制」によって下行性疼痛抑制系が賦活される。

中心灰白質を出た下行性疼痛抑制系の神経線維の一部が、延髄の大縫線核や網様核で放出するのは、興奮作用を持つグルタミン酸やアスパラギン酸などのアミノ酸(*)である。大縫線核にはセロトニンを産生するニューロンがあり、興奮性作用を持つアミノ酸がこの部位のニューロン細胞体を刺激してセロトニンを産生させる。この神経線維の終末部が、脊髄後角ニューロンと接続してセロトニン経路の鎮痛作用を起こすのである。

こうしてみると、この痛覚抑制系は痛覚系が作動すると機能するシステムである。この原理を応用して、鍼灸を含めた徒手療法では末梢刺激を使って痛覚系のネガティブ・フィードバック・メカニズムを利用する手法をとっていることになる。

また、慢性痛患者の脳脊髄液(CSF)中にはβエンドルフィンが減少しているという報告もあり、鎮痛経路の成分からみてもオステオパスが行うクレニオパシーは鎮痛治療としても意義深いものがあるのかもしれない。

<注釈>

(*)アミノ酸は身体に最も多く存在する神経伝達物質の1つの類で、神経細胞間の素早い点対点の伝達に関わっている。中枢神経系のすべてのシナプスの90%ほどの伝達に関わっているといわれている。なかでもグリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、γアミノ酪酸(GABA)などが重要で、グルタミン酸は脳内で最も典型的な興奮性伝達物質であり、GABAは最も多い抑制性の神経伝達物質である。アミノ酸の以外の伝達物質には、モノアミン類や神経ペプチドなどがある。神経ペプチドは、ポリモーダル受容器の作用を考える上で欠かせない物質である。


<第14回>「なぜ、身体にはモルヒネを受け取る仕組みがあるのだろう」

投稿日:2010年11月03日

カイロジャーナル69号 (2010.11.3発行)より

ヒトを含めた脊椎動物には、アヘン類の受容体(オピエート受容体)が備わっている。オピエートとは、自然界にある麻薬物質でケシ坊主を傷つけたときに出る乳液からつくられた「アヘン」や、それを化学的に合成したアルカロイドのことである。アルカロイドはモルヒネと名づけられているが、この薬物に対して鎮痛作用などの奏功を示すということは、身体にその受容体があるからにほかならない。

そもそも、脊椎動物の身体にオピエート受容体がなぜ存在しているのだろう? 麻薬が体内に侵入してくることを待ち望んでいる、というわけでもあるまい。ならば、体内でアヘン様物質がつくられているとしか考えられないことになる。

アヘンやモルヒネは、人類が鎮痛物質として紀元前から使用してきた歴史がある。そのためにアヘン戦争の引き金にもなったくらいで、依存性と副作用も強く、今でも違法薬物として周知の社会問題にもなっている。だが、強力な薬理作用を持つモルヒネは医療の分野では欠かせない薬物である。にもかかわらず、その作用機序については長い間不明のままであった。

なにしろ、オピエート受容体が発見されたのは1973年(昭和48年)のことで、つい近年である。発見したのはキャンデス・B・パート女史である。彼女は自らの落馬事故でモルヒネを使うことになり、その影響を知りたくて薬学の本を読みあさったという。そして一念発起してジョンズホプキンス大学医学部に入り大学院に進み、ついにオピエート受容体を発見したのである。

学ぶことにも、明確な目的とそのモチベーションを保つことが重要なのだと感動するエピソードであるが、この発見によってヒトの鎮痛の基本的な仕組みが明かされていくことになった。

この発見に先立つ1969年には、脳の特定領域を電気刺激すると鎮痛がもたらされる刺激誘発性鎮痛(SPA)が見つかっている。生体内には存在しないモルヒネと特異的に結合する受容体があるということは、生体がこの受容体と特異的に結合する活性物質を作り出しているからで、受容体発見から12年後の1975年(昭和50年)には、脳内麻薬である内因性オピオイドペプチド(*)が見つかった。

<注釈>

(*)ペプチドとは動物の体内でつくられたホルモンの働きをする物質で、オピオイドペプチドは3種類の巨大蛋白分子(プロオピオメラノコルチン、プロエンケファリン、プロダイノルフィン)を消化する過程でつくられる分解産物である。こうしてつくられた主な内因性モルヒネは、最も強力なβエンドルフィン、少量のダイノルフィン、弱い作用のエンケファリン類(メチオニン・エンケファリン、ロイシン・エンケ ファリン)などである。βエンドルフィンは、モルヒネよりも強力な鎮痛作用があると言われている。


カイロジャーナル69号

投稿日:2010年11月03日

69号(10.11.3発行)
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