《第49回》筋・筋膜痛と鎮痛機序 | カイロプラクティックジャーナル

  《第49回》筋・筋膜痛と鎮痛機序

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痛み学NOTE 《第49回》筋・筋膜痛と鎮痛機序2017.09.11

カイロジャーナル89号 (2017.6.19発行)より

「筋膜」という言葉が世間の注目を集めるようになり、最近ではマスメディアにもよく登場する。この言葉を私が最初に意識したのは1984年のことだった。30年以上も前の話で、その年に私はナショナル・カイロプラくティック大学(米国)での解剖実習授業に参加している。実習期間中、ひとりの日本人留学生に通訳兼世話役としてお世話になったが、彼に昨今の米国カイロ事情を尋ねたことがあった。すると彼は大学の書店に私を案内し、そこで2冊の本を紹介してくれた。注目の新刊書だと話してくれたその一冊が、Myofascial Pain and Dysfunction半角イタリックにする(1983刊)だった。今では著名になったトラベルとシモンズの共著で、副題に‟The Trigger Point Manual”半角・以下同 とあった。当時はワープする痛みの存在に新鮮な驚きもあって、それが筋・筋膜の存在に関心を寄せるきっかけになった。

この本は92年になって『トリガーポントマニュアル―筋膜痛と機能障害―』として日本語版が出た。その頃になると、日本の徒手療法界でもトリガーポイントや筋膜痛という言葉を見聞きするようになっていたように思う。今では筋・筋膜性疼痛症候群(MPS)を皮切りに、筋痛、筋膜痛に耳目が集まるようになった。そのうえ筋膜癒着痛とやらも飛び出して、膜系の痛みの実態は注目されるほどに混迷しているようにもみえる。

これらの表現は語源的に「fascia」に関わっている。「fascia」を表現する場合は、「連鎖する膜系の存在」を包括しているようだ。「myofascial」として表現されるときには「筋・筋膜」という局所的組織を対象として使われるのだろう。それも筋・筋膜組織が器質的に変化したトリガーポイントから、他の筋・筋膜組織に痛みがワープする病態を特徴にしている。が、筋・筋膜痛あるいは膜系に由来する痛みの因果論になると混乱しているようだ。そのためトリガーポイントやテンダーポイントを直接ターゲットにする手法が取られたり、あるいは膜系連鎖の視点から間接的・遠隔的手法が用いられたりするが、こうした痛みの存在についてはカイロとも無縁ではない。

40年代後半に、カイロプラクターのニモDCがトリガーポイントと同様の概念を「侵害生成点(NGP)」として提言している。その文献によると、ニモはカイロで扱う関節障害はNGPの形成によるものだと主張しているのだ。その原因は交感神経系の過剰な活動によるもので、筋肉も神経干渉の部位だとした。侵害生成点(NGP)こそ関連痛や自律神経症状の本態だと説いたのである。こうした筋・筋膜痛に、医療の領域ではトリガーポイント注射が効果的に応用されているようだが、エビデンスはほとんどない。一方、徒手療法の領域でも鍼も含めて多様な手法が用いられている。一体、筋・筋膜に由来する鎮痛の機序とはどのようなものなのだろう。

ジョージ·ワシントン大学医療センターから「腰痛へのトリガーポイント注射療法の前向き無作為化二重盲検評価」という論文が出されている。4週間の保存療法後にも残存した腰痛患者63人に対し、異なるタイプの4つの手法で評価した無作為化、二重盲検による治験の報告である。4つの手法とは、

  1. リドカイン注射
  2. リドカイン&ステロイド注射
  3. 鍼治療
  4. 冷却スプレーと経絡圧、

である。結果は、4つのいずれもが同程度の有効性を示した。トリガーポイントに直接機械的刺激を行っても同等の症状の緩和がみられたことから、注入薬物が重要な鎮痛要因ではないと結論している。

さらに、デンマークのコペンハーゲン大学からは「筋・筋膜痛のための生理食塩水注射とメピバカイン注射制御における二重盲検比較」と題する論文が提出されている。局所の筋・筋膜痛に対して、

  • Aグループ28人には0.5%メピバカイン局所注射、
  • Bグループ25人に対しては同量の生理食塩水注射で比較した。

その二重盲検比較によると、生理食塩水注射を行ったグループの方に最初の注射の後の緩和がより多く見られたほかは、両群に有意な差はなかった。それでも痛みが緩和する可能性を考えると、単に局所麻酔薬による効果とは考え難い。注射針の刺入による鎮痛の可能性まで考慮すれば、鍼の効果と同じ作用なのかもしれないとしている。注入薬物や刺激入力の手法に決定的な鎮痛要因が認められないとすれば、どのような変化が促されるのだろう。それらに共通する鎮痛の機序を推論していくと、生体膜組織間での液性の流動が促された結果ではないのかと思えてくる。悩ましい課題である。


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