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  第32回 股関節のバイオメカニクス

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スポーツ・カイロプラクティック 第32回 股関節のバイオメカニクス2017.07.31

榊原直樹DC
カイロジャーナル89号 (2017.6.19発行)より

股関節の靭帯

股関節には3つの関節包靭帯があります。それらは、腸骨大腿靱帯、恥骨大腿靱帯、そして坐骨大腿靱帯です。これらは、それぞれの靭帯の名前が示す部分から起こり、全て転子間線に停止を持っています。そのため、大腿骨頚の95%は関節包によって覆われています。(関節包に覆われていない部分は、大腿骨頚後部にあります)。

これら3つの関節包靭帯は、中立位において捻れた状態(図1A)で走行しているため、股関節伸展位において緊張(伸張)し、屈曲位において弛緩(図1B)します。したがって股関節は最大伸展位において最も安定しています。一方、屈曲に内転を加えたポジションが最も不安定になります(関節の遊びが大きい)。

股関節屈曲位の図
図1 A. 中立位

股関節屈曲位の図
図1 B. 屈曲位

1.腸骨大腿靱帯

腸骨大腿靱帯は股関節前上部をY字状に広がっています(図2)。そのため、この靭帯はBigelowのY靭帯とも呼ばれています。AIIS(下前腸骨棘)、寛骨臼上縁から転子間線に向かって二又に分かれて伸びる人間の身体の中で最も強い靭帯です。股関節の過伸展を防いでいるのと同時に伸展位における外旋の制限要素にもなっています。したがって、この靭帯の硬縮は股関節を屈曲、内旋させることになります。また、大腿骨頭の前方脱臼を防いでいます。

腸骨大腿靱帯と恥骨大腿靱帯(右股関節前面図)
図2 腸骨大腿靱帯と恥骨大腿靱帯(右股関節前面図)

2.恥骨大腿靱帯

恥骨大腿靱帯は恥骨から外下方へと伸び、股関節の関節包前下部と癒合しています(図2)。また、腸骨大腿靱帯の一部とも癒合しています。股関節の伸展、外転、外旋の制限要素となっています。この靭帯は、その下層にある関節包と隣接しているため、関節包を直接的に補強しています(特に前下部)。また、腸骨大腿靱帯とともに大腿骨頭の前方脱臼を防いでいます。

3.坐骨大腿靱帯

坐骨大腿靱帯は寛骨臼縁(坐骨部)から大腿骨頚(大転子内側)後部に伸びる靭帯です(図3)。股関節内旋の制限要素となっています。また、股関節屈曲位において内転の制限要素にもなります。

坐骨大腿靱帯(右股関節後面図)
図3 坐骨大腿靱帯(右股関節後面図)
表1 股関節の靭帯とそれらが伸張位となる股関節のポジション
靭帯 伸張位の股関節のポジション
腸骨大腿靱帯 伸展、外旋(股関節伸展位)
恥骨大腿靱帯 伸展、外転、外旋
坐骨大腿靱帯 内旋、内転(股関節屈曲位)

寛骨臼上の大腿骨の運動

股関節は大腿骨頭と寛骨臼によって構成されている球関節です。股関節には、屈曲/伸展(矢状面)、外転/内転(冠状面)、外旋/内旋(横断面)の3度の自由度があります。股関節の安定性は、(1)寛骨臼の形状(深さ)、(2)関節唇、(3)軟部組織(靭帯、筋肉)の状態によって影響を受けます。

屈曲/伸展

大腿骨の屈曲/伸展では、大腿骨頭の中心と大腿骨頚を結ぶ軸(図4)における回旋運動です。屈曲により大腿骨頭には後方回転が生じ、伸展では前方回転が生じます。また、膝屈曲位における股関節屈曲の可動域は約120度ありますが、膝伸展位では80度になります(※1、2)。 一方、股関節伸展の可動域は10~30度です(※3)。

股関節の屈曲/伸展の運動軸
図4 屈曲と伸展の運動軸

外転/内転

股関節の外転/内転では、大腿骨頭の回転と滑り運動が生じています。外転の時、大腿骨頭では上方回転と下方滑り、内転では下方回転と上方滑りが生じます(表2)。股関節外転の可動域は45~50度、内転は20~30度あります(※3)。 外転は恥骨筋、内転は大腿筋膜張筋、腸脛靭帯が制限要素となります。

表2 大腿骨の外転/内転によって生じる股関節の関節内運動
大腿骨の運動 関節内運動
外転 上方回転+下方滑り
内転 下方回転+上方滑り

外旋/内旋

股関節の外旋/内旋でも大腿骨頭の回転と滑り運動が生じています。外旋では外方回転と内方滑り、内旋では内方回転と外方滑りが生じます(表3)。制限要素は股関節のポジションによって変化します。股関節中立位における外旋の制限要素は、恥骨大腿靱帯と関節包前部、内旋では坐骨大腿靱帯と関節包後部です。また、股関節90度屈曲位における外旋の制限要素は、腸骨大腿靱帯と関節包上部、内旋では坐骨大腿靱帯(上部)と関節包下部です(表4)。また、股関節の外旋では大腿骨頭の挙上、内旋では大腿骨の下制が伴います(股関節90度屈曲位)。

表3 大腿骨の外旋/内旋によって生じる股関節の関節内運動
大腿骨の運動 関節内運動
外旋 外方回転+内方滑り
内旋 内方回転+外方滑り
表4 股関節外旋/内旋の制限要素
股関節のポジション 外旋 内旋
中立位 恥骨大腿靱帯
関節包前部
坐骨大腿靱帯
関節包後部
90°屈曲位 腸骨大腿靱帯
関節包上部
坐骨大腿靱帯(上部)
関節包下部

大腿骨上の寛骨の運動

股関節が荷重位の時、大腿骨は固定されています。したがって股関節では寛骨の運動が起こります。

前傾/後傾

骨盤の前傾/後傾は、大腿骨頭を運動軸とする矢状面での運動です。立位において股関節が中立位であると仮定した場合、ここから30度の骨盤の前傾が可能です(図5A)。同じ条件における後傾の可動域は約15度です(図5C)。また、骨盤が前傾位の時は大腿骨は屈曲位、後傾位の時は伸展位となります(荷重位において)。

骨盤の前傾/後傾の可動域 A.前傾位
図5 骨盤の前傾/後傾の可動域 A.前傾位

骨盤の前傾/後傾の可動域 B. 中立位
図5 骨盤の前傾/後傾の可動域 B. 中立位

骨盤の前傾/後傾の可動域 C. 後傾位
図5 骨盤の前傾/後傾の可動域 C. 後傾位

外転/内転

骨盤の外転/内転では、片足荷重位の場合と両足荷重位の場合の二通りがあります。片足荷重位における骨盤の外転/内転は、荷重位側の大腿骨頭を運動軸とする冠状面の運動です。荷重位側寛骨の外転では、腰椎は反対側への側屈、さらに同側への回旋が生じています(図6A)。一方、荷重位側寛骨の内転では逆方向の運動が生じています(図6B)。この時、非荷重位側骨盤では反対方向の運動が生じています。

股関節荷重位側寛骨の外転
図6 骨盤の外転/内転 A. 荷重位側寛骨の外転

股関節荷重位側寛骨の内転
図6 骨盤の外転/内転 B. 荷重位側寛骨の内転

回旋

骨盤の回旋にも、片足荷重位の場合と両足荷重位の場合があります。両足荷重位の場合、脊柱を運動軸とする回旋が生じます。一方、片足荷重位の場合、荷重位側の大腿骨頭を運動軸とする回旋運動が生じます。歩行時の骨盤の運動を考えてもわかる通り、片足荷重位における骨盤の回旋運動の方がより一般的です。

片足荷重位における骨盤の回旋では、非荷重位側の運動を指します。つまり、左側荷重位の場合、右側寛骨の運動を示しています。例えば、左寛骨後方回旋の場合、右側荷重位において右股関節を外旋させることになります(図7A)。また、左寛骨前方回旋では右側荷重位において右股関節を内旋させることになります(図7B)。

骨盤の後方回旋
図7 骨盤の回旋 A. 骨盤の後方回旋

骨盤の前方回旋
図7 骨盤の回旋 B. 骨盤の前方回旋

大腿骨、骨盤、腰椎の運動連鎖

立位において体幹の前屈を行った場合、二通りのシナリオが想定されます。1つ目は股関節の屈曲に伴い、脊柱の屈曲が生じる場合です。2つ目は脊柱を中立位で維持したまま股関節の屈曲を行い前屈する場合です。前者は開放性運動連鎖(OKC = open kinetic chain)、後者は閉鎖性運動連鎖 (CKC = closed kinetic chain) になります。

OKC腰椎骨盤連鎖

大腿骨、骨盤(寛骨、仙骨)、腰椎が協調してすることで、より大きな可動域で動くことが可能となります。日常生活において体幹の前屈動作を行う際、通常起こるのがOKC運動連鎖の方です。

膝関節伸展位を維持したまま体幹の前屈を行った場合、初動時には寛骨の前傾(股関節の屈曲)、仙骨の屈曲(Nutation)、腰椎の屈曲が起こります(図8)(※4、5、6)。また、前屈の終動において仙骨には伸展(Counter-Nutation)が起こります(※5)。 さらに、仙骨の屈曲には、寛骨の外旋も伴います(図9)。

OKC腰椎骨盤連鎖
図8 OKC腰椎骨盤連鎖

仙骨屈曲に伴う寛骨の外旋
図9 仙骨屈曲に伴う寛骨の外旋

CKC腰椎骨盤連鎖

立位(荷重位)において脊柱を中立位で維持したまま体幹の前屈を行うことで、骨盤の前傾が起こります。この場合、仙骨(仙腸関節)には運動は起こっていません。したがって股関節の屈曲のみが生じています(図10)。

CKC腰椎骨盤連鎖
図10 CKC腰椎骨盤連鎖

文中カッコ内の※の次に示した1~6の数字は文末の参考文献と対応しています

参考文献

  1. Combleet SL, Woolsey NB: Assessment of hamstring muscle length in school-aged children using the sit-and-reach test and the inclinometer measure of hip joint angle. Phys Ther 74: 387-398, 1996
  2. Lee. D: The Pelvic Girdle. P46-62. Edmburgh: Churchill Livingstone, 1989
  3. Mltchell FL. Moran PS. Pruzzo NA: An Evaluation and Treatment Manual of Osteopathic Muscle Energy Procedures. Manchester. MO: Mitchell. Moran and Pruzzo. Associates, 1979
  4. Norkin G, White D: Measurement of joint motion: A guide to coniometry, 3rd ed. Philadelphia, FA Davis, 2003
  5. Roach KE, Miles TP: Normal hip and knee active range of motion: The relationship to age. Phys Ther 71: 656-665, 1991
  6. Schafer RC: The lumbar spine and pelvic. In: Schafer RC (ed). Clinical Biomechanics, Musculoskeletal Actions and Reactions. Baltimore Williams & Wilkins, 1987

榊原直樹, DC, DACBSP®, ICSSD, CSCS
東北大学卒業(動物遺伝子学)
Cleveland Chiropractic College卒業。
カイロプラクティック・ドクター免許取得(#DC25271)
公認スポーツ障害専門カイロプラクター(CCSP)
公認ストレングス&コンディショニングスペシャリスト(CSCS)
トリノオリンピック・メディカルチームメンバー
スポーツ・カイロプラクティック学位(DACBSP)
岐阜大学大学院医学系研究科非常勤講師
スポーツ医学&カイロプラクティック研究所
blog スポーツドクターSのざっくばらん

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