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  再考 医業類似行為《上》

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再考 医業類似行為《上》

法制度の歴史
地域別の規制、寮術禁止などを経て事実上の自由営業へ!
カイロジャーナル87号 (2016.10.15発行)より

「カイロプラクティックは医業類似行為である」。少なくとも昭和中期(1965年頃)までは、この認識はカイロ施術者の間で共有されていた。しかし現在のカイロ施術者に、カイロが医業類似行為という共通認識は薄い。

一方、カイロは法律上の無資格者、無法地帯であるから、法制化により、免許制度や資格制度を確立し、利用者(患者)に安全を保証し、職業的地位を築きたいという願いは、大同小異はあっても共有されている。

医業類似行為は、半世紀前までは法制化運動のキーワードだった。法制化運動の事実上の終焉とともに、この言葉の重みも失われ、あいまいな意味合いしか持たなくなってしまったかに見える。カイロやその他の手技療法が何らかの法的整備を目指すのであれば、法制化への取り組みの歴史から学び、課題を整理して今後に役立てなければならない。そのキーワードとなる「医業類似行為」を再考したい。

医業類似行為法制度の歴史

明治から戦前まで

日本の近代的医療制度が導入は、明治初期、岩倉使節団が西洋諸国の制度を視察したことに始まる。1873年(明治6年)に文部省医務局が設立され、74年に3府(東京、京都、大阪)に医制を敷いた。これは法令というより指針を示した訓令に近いもので、その後各種の法制度や規制が整えられていった。

85年、内務省から府県に対し、鍼灸、接骨業の管理を府県で行うよう取り締まり通知が出された。これには按摩、療術は含まれなかった。1911年、内務省令として「按摩術営業取締規則」「鍼術灸術営業取締規則」が制定された。これには按摩と鍼灸に地方長官管轄の免許が必要であることが明記された。20年(大正9年)には「按摩術営業取締規則」が改正され、マッサージに資格や免許が必要なこと、柔道整復術には同規則が準用されることが明記された。

あん摩マッサージ、柔道整復には、少なくとも20年から国家的規制が設けられたわけだが、それ以外の医業類似行為の規制は府県ごとに異なり、許可制、届出制、規制なしなど、対応はまちまちだった。30年(昭和5年)、東京府は警視庁令として「療術行為取締り規則」を制定し、府県による規制の先駆けとなった。この警令では療術行為は「他の法令の範囲外であること。疾病の治療、保健の目的で他人に施術を為すこと。光、熱、器械器具、その他のものを用いて、または四肢を運用して行う行為」と定義された。

戦後の法整備

46年、日本国憲法が公布され、戦前の法律はすべて新たな法律により規定し直されることになり、医業類似行為に関わる法律は47年末に失効することになった。47年4月には「医業類似行為をなすことを業とする者の取締に関する件」という、初めて医業類似行為と名の付く厚生省令が発行されたが、これも年末で無効となった。ちなみにこの省令では「地方長官は医業類似行為の取締りについて命令を発することができる。その命令への違反者は罰則規定に処する」という内容で、これまでの府県令を強化するものであった。

新たに制定された法律は「あん摩、はり、きゅう、柔道整復等営業法」(48年から施行)だった。これは療術側からは療術禁止法と呼ばれる法律で、医業類似行為はすべて禁止された。GHQから医師による医療の一元化を図るように指示があったと言われ、厚生省、医師会の意向を受けた医療制度審議会にはこれに反対する理由はなかった。

この法律が現在の「あん摩マッサージ指圧師はり師灸師に関する法律」の原型である。特に重要なのが第一条「医師以外の者で、あん摩(マッサージを含む)、はり、きゅう、柔道整復を業としようとする者は、それぞれの免許を受けなければならない」と第十二条「何人も、第一条に掲げるものを除くほか、医業類似行為を業としてはならない」である。療術を業としている者に対しては、第19条「医業類似行為を業としていた者であって、この法律施行の日から三カ月以内に、省令の定める事項につき都道府県知事に届け出た者は、第十二条の規定にかかわらず、昭和三十年(55年)までは、当該医業類似行為を業とすることができる」とされ、療術は新たに開業することはできず、既得権者のみが届け出によって行うことができる職業となった。

療術禁止反対運動

法律制定による突然の療術禁止に、療術業界に震撼が走った。当時の療術業界は業界代表と言える団体はなかったが、「未曾有の危機到来」で結束し、47年10月に全国療術協同組合(現・全国療術師協会=全療協)が発足、第1回大会で「我らは相互の信頼と協力による堅き団結力を以って独立療術師法の実現を期す」と決議した。

全療協の運動方針には、①衆参両院の議員に対し、それぞれの選挙区の療術地方組合から療術禁止を覆す法整備を働きかける②療術の内容、医療との区別を説明し理解を求める③医師会、医療制度審議会などへの対策を講じる④GHQに療術の治療効果を説明し請願する、などがあった。48年4月には、全療協の46都道府県加盟組合嘆願署名18万名と全療協代表・守屋栄夫の名前でGHQに嘆願書を提出した。

嘆願書(一部紹介)

「我々の職業である療術は日本人民の健康を増進し、医薬によらざる物理的療法によって病気を治し、以って社会福祉の増進に寄与してまいりましたところの社会的事業なのであります。

しかもこの技術及び科学的理論は、業者自らアメリカに留学してかのカイロプラクティックおよび光線療法、電気療法等を習得し、それが研究され、実験され、その結果医薬によらざる療法として社会に認められ、国民の信用を得てきたもので、なんらの毒害も与えた事実はないのであります。

かくして我々は十数年間政府当局あるいは国会に請願し陳情して来たのでありますが、政府はアメリカにおいて研究発達して来たカイロプラクティックまでも非難禁止の方針できたのであります。政府は民間療法に対しては一定の方針も定めず指導せぬ結果、満州事変以後から放任する結果となり、幾多不良の療術が民間に蔓延するに至ったのであります。

ダグラス・マッカーサー元帥閣下。我々物理療法業者は、民主主義的な新しい憲法により、旧憲法による多年の弾圧から必ず救われるものと非常な期待を持っていたのであります。その我々の大きな期待はこの度の新しい法律によって裏切られました。かくして我々迷える羊は下記の療術内容を添え賢明なるマッカーサー元帥閣下へ嘆願するより途はないのであります。なにとぞ公正なる御裁断あられますようお願いします」

GHQから返答はなく、全療協はその後も国会議員を通じての請願を継続した。

既得権の延長措置

療術既存業者に対する届け出による営業許可の法的期限が迫る55年7月、「あん摩師、はり師、灸師、および柔道整復師法(以下あん摩師等法)の一部を改正する法律」が可決された。主な変更点は、①療術の特例措置である営業期限を58年まで延長する②その間療術師にあん摩師試験受験資格を与え、合格した者はあん摩師になれる③第一条に指圧が加わり「あん摩(マッサージ指圧を含む)」となって、あん摩師業務に指圧が加わったことである。

3年後の58年になると、特例措置の期限は再度3年延長され、61年に再度3年延長された。国民保健上弊害のない療術行為を生業とする者に対して一定期間が過ぎたら全面禁止するということは、職業権、生存権の剥奪に等しく、考慮すべきであるとの意見は、政府内からも一定の理解を得ていた。しかし療術の制度化、法制化への歩みは全く進まず、暫定的な既得権の延長だけが繰り返されていた。

60年の最高裁判決

届け出をした療術既存業者ではない者が高周波療法を行ったことは、あん摩師等法の12条に違反するとして罰金刑を言い渡された無資格医業類似行為者が、判決を不服として控訴した結果、60年に最高裁が驚くべき判決を出した。被告人の上告趣旨の「あん摩師等法は憲法22条の職業選択の自由に反する」という主張を認め、同法による医業類似行為の禁止は無効であるとしたのだ。

これを受けて厚生省は、医業類似行為について禁止処罰の対象となるのは、人の健康に害を及ぼす恐れのある業務に限局されるとの見解を発表した。この後も、医業類似行為の届け出制度は継続したが、既得権益としての意義は薄れた。

特例措置の期限撤廃

特例措置の期限の年であった64年、「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師等に関する法律」が成立した。旧法からの改正点は、①あん摩師の業務に含まれる記述となっていたマッサージ、指圧業務が、あん摩マッサージ指圧師と名称変更されたことで独立業務と解釈できるようになった②届け出医業類似行為の営業期限は撤廃され、無期限で営業可能となった③あん摩マッサージ指圧、はり、きゅう、柔道整復等中央審議会に医業類似行為に関する事項について調査審議する権限が与えられ、厚生大臣がその審議結果を参酌して必要な措置を講じなければならないとした、などである。

特例措置の期限撤廃は、これまでの経緯からすれば療術側の勝利だが、最高裁判例により、無資格医業類似行為が許容されたため、届け出の意義そのものが弱まってしまった。医業類似行為は事実上の自由営業となり、療術禁止反対を中心に据える20年来の活動方針も見直しが迫られていた。
=次号に続く=

医業類似行為=本紙の定義

最初に立場によって異なる解釈がある用語について、混乱を避けるため、本稿での意味を定義する。

「医業類似行為」とは、医師法17条に抵触しない、保健目的で他人を施術する行為である。

「療術」とは、医業類似行為のうち、あん摩マッサージ指圧、はり、きゅう、柔道整復(法定4業務)以外の療法で、カイロプラクティック、オステオパシー、整体、免許者によらない物理療法、精神療法が含まれる。特に昭和期の法制化運動が盛んな時代には療術は無免許医業類似行為と同義で用いられた。

参考文献
全療協45年史編纂委員会(1994年)『全療協45年史』全国療術師協会
坂部昌明(2013)「鍼灸師とはり灸に係る法制度の変遷―制度成立から現在にいたるまで」『社会鍼灸学研究』2013年8号8-18頁

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