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  第28回 肘関節の後外方回旋不安定性

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スポーツ・カイロプラクティック 第28回 肘関節の後外方回旋不安定性2016.09.15

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カイロジャーナル86号 (2016.6.17発行)より

肘関節の後外方回旋不安定性PLRI(PLRI=Posterolateral rotatory instability)は、1990年代にO’Driscollらによって定義されました(※2、14、15)。O’ Driscollらは、前腕を回外させた時、肘関節において反復性の後外方変位と捻髪音が発生する5人の患者について報告しています(※14)。これら5人の患者の内4人に、肘関節の後方または後外方脱臼の過去歴がありました(1人は肘関節の捻挫の過去歴のみ)。肘関節の後外方回旋不安定性の検査にピボットシフトテストがありますが、この検査をこれら5人の患者に実施したところ、橈骨頭の後外方への変位、さらに変位に伴う痛みが生じました(※14)。

肘関節のPLRIは、前腕回外位において肘関節をやや屈曲させた時に増悪します(肘関節はこのポジションにおいて関節による安定性が最も小さくなるため)。この時、肘関節に外反力を加えることで、橈骨頭の後外方への変位が促されます(図1)。また、同時に尺骨の回外変位も生じます。したがって肘関節にPLRIがある場合、肘関節の運動に伴い橈骨頭の後外方への脱臼(または亜脱臼)が発生します。

図1 橈骨頭の後外方変位 肘関節やや屈曲位+前腕回外位において肘関節を外反させることで、橈骨頭の後外方変位(+尺骨の回外変位)が発生

肘関節の後外方回旋不安定性の原因の一つに内側側副靭帯複合体の損傷(機能低下)があります。しかし、多くのケースにおいて、この靭帯の一部にのみ機能低下が起こっているため、外反ストレステストでは不安定性が認められないこともあります(※12)。また、PLRIが生じるためには、外側側副靭帯複合体の損傷が伴っている必要があるとする報告もあります(※4)。それによると、外側側副靭帯複合体に加え前腕伸筋群の腱に機能低下がある場合、PLRIが好発すると報告されています。

【ピボットシフトテスト】

ピボットシフトテストは、患者仰臥位において、肘関節完全伸展位において前腕を回外位にします。さらに肘関節の外反を維持しながら、他動的に屈曲させていきます。この検査で陽性の場合、尺側側副靭帯複合体、特に外側尺側側副靭帯(LUCL=Lateral ulnar collateral ligament、尺側側副靭帯の後部線維束)の機能低下が、肘関節の後外方回旋不安定性の主要因であると言われています(図2)。7, 8, 11, 12, 14-16 LUCLは関節包が肥厚したものです。外側上顆から回外筋稜(尺骨)に伸びており、肘関節外側の安定性の他、橈骨頭の後外方変位を防ぐ役割も担っています。8

図2 肘関節の内側側副靭帯複合体

肘関節の内側側副靭帯複合体を全て除去した検体において、ピボットシフトテストを行った時の橈骨頭の変位を測定した研究報告があります。これによると、橈骨頭の後方へのサブラクセーションは、肘関節の屈曲角度が増すに従い大きくなり、およそ90度において最大値(21ミリ)に達します(図3)。

図3 ピボットシフトテスト時における橈骨頭の変位(㎜)
橈骨頭の変位は後方への変位を示す。肘関節の外側側副靭帯を除去した検体においてピボットシフトテストを行った所、上表のような結果となった。17

外側側副靭帯複合体の機能低下とPLRI

外側側副靭帯複合体の機能低下がPLRIを引き起こすことがあります。外側側副靭帯の機能低下は、脱臼などによる損傷、反復負荷によるマイクロトラウマ(微細外傷)、さらに手術などによる医原性などが原因となります(※3)。20歳以下の患者の75%において、肘関節の脱臼による外側側副靭帯複合体の損傷がPLRIを引き起こしています。一方、成人の場合、反復負荷による外側側副靭帯複合体の機能低下が、PLRIの原因となっている場合が多いです。

図4 前腕部が固定された状態で上腕骨に内旋力が加わることで、前腕部には相対的に外旋力が加わることになる。12

1.脱臼

肘関節の脱臼(または亜脱臼)は、手をついて転倒した際に発生します(※10、13)。転倒の際、肘はやや屈曲位、前腕は回内位である場合が多いです。この状態で上腕骨に急激な内旋が加わり(相対的に肘関節の外旋が生じる)、さらに肘関節に外反と外旋が加わることで、脱臼が発生します(図4)。脱臼後に肘関節の後外方不安定性が起こります。肘関節の脱臼では、ほぼ外側側副靭帯の断裂が生じており、95%以上のケースで橈骨頭の後外方不安定性が起こります(※5)。また、脱臼の再発率は15%から35%と言われています(※10)。PLRIには、その症状の程度に応じてステージがあります(表1)。

2.反復負荷

長期に渡り軟部組織へ反復負荷が加わることで、その機能は低下していきます。肘関節でしばしば見られる症状に外側上顆炎(テニス肘)がありますが、これも短橈側手根伸筋腱に負荷(伸張性収縮)が反復されることが発症メカニズムとなっています。また、外側上顆炎のケースでは外側側副靭帯に機能低下が認められることもあります。その場合、PLRIが併発していることもあります。

3.医原性

外側上顆炎の手術(外側上顆周辺のリリース)などの肘関節外側の手術後、PLRIが発症する場合があります(※1、3、6、9)。

ステージ 詳細 症状
ステージ1 LUCLの損傷
橈側側副靭帯と(または)関節包後外側の損傷の可能性あり
肘関節の捻挫で発生することが多い
橈骨頭の後外方変位
捻髪音
ピボットシフトテスト陽性
ステージ2 外側側副靭帯複合体の損傷
関節包前後部の損傷
橈骨頭の後外方脱臼(または亜脱臼)
ピボットシフトテスト陽性
肘関節内反の不安定性
肘関節外反は安定(整復後)
ステージ3a 内側側副靭帯後部線維束の部分断裂
腕橈関節の圧迫により、橈骨頭の後方脱臼が発生
内側側副靭帯前部線維束の損傷はなし
臨床では稀にしか見られない
ステージ3b 内側側副靭帯の完全断裂 橈骨頭の脱臼後に認められることが多い
表1 橈骨頭の後外方不安定性のステージ12

参考文献

1. Bell S: Elbow instability, mechanism and management. Current Orthopaedics. ; 22:90-103,2008
2. Bell SN, Morrey BF, Bianco AJJ: Chronic posterior subluxatron and dislocation of the radral head. J Bone Jornt Surg Am ;73A.392-6.,1991
3. Charalambous CP, Stanley JK: Posterolateral rotatory instability of the elbow. J Bone Joint Surg (Br). ;90:272-279,2008
4. Cohen MS, Hastings H: Acute elbow dislocation: evaluation and management. J Am Acad Orthop Surg 6:15-23,1998
5. Eygendaal D: Ligamentous reconstruction around the elbow using triceps tendon. Acta Orthop Scand. ;75(5):516-523,2004
6. Hickey DG, Loebenberg MI: Elbow instability. Bulletin of the NYU Hospital for Joint Diseases. ;64(3,4):166-171,2006
7. King GJW, Morrey BF, An KN: Stabilizers of the elbow. J Shoulder Elbow Surg 3: 16.574,1993
8. Morrey BF, An KN: Functional anatomy of the ligaments of the elbow. Clin Orthop ;201 .84-90,1985
9. Muller MS, Drakos MC, Feeley B, Barnes R, Warren RF: Nonoperative management of complete lateral elbow ligamentous disruption in an NFL player: a case report. HSSJ. ;6:12-25,2010
10. Murthi AM, Keener JD, Armstrong AD, Getz CL: The recurrent unstable elbow: diagnosis and treatment. J Bone Joint Surg Am. ;92;1794-1804.,2010
11. Nestor BJ, O’Dnscoll SW, Morrey BF: Ligamentous reconstructron for posterolateral rotatory instabilrty of the elbow. J Bone Joint Surg Am 74A 1235-41,1992
12. O’Driscoll SW, Morrey BF, Korinek S, An KN: Elbow subluxation and dislocation. A spectrum of instability. Clan Orthop ;280 186-97,1992
13. O’Driscoll SW: Elbow instability. Acta Orthopaedica Belgica. ;65(4):404-415.,1999
14. O’Drrscoli SW, Bell DF, Morrey BF: Posterolateral rotatory instabiliiy of the elbow. J Bone joint Surg Am ,73 440-6,1991
15. O’Drrscoll SW, Morrey BF, Korrnek St, An KN: The pathoanatomy of posterolateral rotatory Instability of the elbow (abstract). Orthop Trans ,14:629-30,1990
16. O’Drrscoll SW: Elbow InstabilIty. Hand Clin 1040.55,1994
17. Olsen BS: Posterolateral elbow joint instability: The basic kinematics. J Shoulder Elbow Surg 1998, Vol7: 19-29

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