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  《第46回》慢性痛と体内環境としての食

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痛み学NOTE 《第46回》慢性痛と体内環境としての食2016.08.30

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食生活の改善の重要な鎮痛要因
カイロジャーナル86号 (2016.6.17発行)より

「いわゆる慢性痛」とされる病態は一様ではない。そこには単に急性痛が長引いて慢性的に推移している病態も含めているからで、「急性痛が長引いた痛み」と「病的な痛み」が含まれていることになる。仙波恵美子教授(和歌山県立医科大学)は、「生理的な痛み」と「病的な痛み」という表現で使い分けている。故・熊澤孝朗先生は、この病的な痛みに「慢性痛症」という用語を当てていたが、それとてまぎらわしい。まとめると、急性痛と慢性的に移行している痛みを含めて「生理的な痛み」があり、そして「病的痛み」としての「慢性痛症」があるということだろう。

痛み治療の重要性

病的な痛みに移行するプロセスには、「神経系の感作」がかかわる。「感作」とは、本来はアレルギー反応などに用いられてきた言葉らしい。神経系の感作は、末梢性であろうと中枢性であろうと強い侵害刺激が持続することで起こりやすい。

痛みとは感覚的な経験である。昔の恐怖体験や嫌な経験を、いつまでも記憶しているのに似ている。急性であれ慢性であれ、痛みが強烈に記憶されることで病的な痛みに変わるのである。そうなると痛み信号の伝達能力が亢進されるわけで、なかなか消えない痛み症状になる。この記憶された痛みは、後天的に遺伝子を修飾しかねない。だからこそ厄介である。通常の痛み治療では太刀打ちできない怪物になる。この怪物は、患者の精神心理まで脅かす。当然、通常であるべき社会生活をも蝕む。このことも痛みが脳機能に深くかかわっている証拠であろう。だから、そうなる前にストップをかけること、それが痛み治療の大前提になっている。痛みの概念が変わったのである。

例えば、「炎症→治癒」のプロセスでは、炎症性物質と抗炎症性物質のせめぎ合いによって鎮痛と組織の修復がもたらされる。鎮痛されることなく強い侵害刺激が持続すると炎症反応が起こり、進行性に組織の破壊が進んでいく。やがて末梢からの刺激が減少するに従い、関節の不動化や固定化が起こる。すると今度は、代償性に過剰運動性がもたらされることで過敏な刺激症状が起こる。そうなると痛みの連鎖がはじまる。組織が修復できなければ、またぞろ病理的な変性疾患に移行する。だから障害された運動機能系の回復は、痛み治療に重要な地位が与えられるべきなのだ。今では、脳に痛み記憶を固定させない対応が求められているのである。

炎症を助長する食品に注意

筋骨格系の痛みが慢性化するプロセスには、「痛みの前駆ステージ」を促進させる体内環境の問題を考慮しておく必要もあるだろう。その一つに「食」の問題があり、これもなかなか厄介な問題かもしれない。では、どんな食物が痛みの前駆ステージを促進させるのだろうか。よく知られるところでは、精製された穀類、小麦粉製品、穀物食の肉類と卵、パッケージ食品と加工食品、揚げ物、トランス脂肪酸と含有製品、オイル(コーンオイル、サフラワーオイル、大豆油、多くのサラダ・ドレッシング製品)などが前炎症性に関与するとされている。そう考えると「罠」は日常の至る所にあるわけで、魔法のようにすべてを解決できる鎮痛薬などもない。「痛みの前駆ステージ」となる食を改善することも、重要な鎮痛要因の一つとみるべきだろう。

人間は遺伝子的に旧石器時代から狩猟採集食に適応している。代表的な食物としては、果物・野菜・ナッツ類・じゃがいも、あるいは鮮魚や草食の家畜肉などがあげられている一方で、現代食には精製穀類、小麦粉製品やトランス脂肪酸を含む加工食品・パッケージ食品、揚げ物などに代表される前炎症性食品があふれている。

こうして見ると、抗炎症性食物と前炎症性食物との間には特徴的な傾向がある。一つは植物食の摂取不足である。カリウムやマグネシウムの不足を解消するためにも植物食は不可欠だろう。もう一つはオメガ6脂肪酸の過剰摂取である。多価不飽和脂肪酸にはオメガ6(リノール酸/n6)とオメガ3(αリノレン酸/n3)がある。これらは植物から得られる必須脂肪酸であるが、このオメガ6と3の摂取割合によって「前炎症と抗炎症のステージ」が分けられるとする提言がある(『炎症と痛みに対する栄養学的配慮』David Seaman DC)。

「オメガ6:オメガ3」の割合は1対1が理想とされている。ところが、現代のアメリカ人の標準では、20~30対1以上の割合でオメガ6が圧倒的に多量な傾向にあるらしく、この割合は極めて「前炎症段階の食」ということになる。だからこそ努力目標として「オメガ6:オメガ3」の割合を4対1にすべきだと主張されており、この割合は「前炎症」のステージと「抗炎症」のステージを分けるボーダーラインである、と前掲論文で提言していた。この望ましいとされる割合を、今日の食文化の中で実施するのは確かに努力がいる。そう考えると、今日の標準的な食生活というのは、痛みが蔓延して社会問題化している現代の一面を言い得ているのかもしれない。


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