《第45回》なぜ炎症徴候が慢性的に続いたりするのだろう | カイロジャーナル

  《第45回》なぜ炎症徴候が慢性的に続いたりするのだろう

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痛み学NOTE 《第45回》なぜ炎症徴候が慢性的に続いたりするのだろう2016.05.06

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ポリモーダル受容器に注目
カイロジャーナル85号 (2016.2.18発行)より

これまでみてきたように身体組織に有害な刺激が加わると、まずは警告信号としての痛みが起こり、損傷組織の除去や修復が促される。この時期の生理反応が炎症で、4徴候(①疼痛、②発赤、③熱感、④腫脹)が伴う。この生理反応の機序に関するキーワードは血管反応に起因するもので、血管が拡張し、血流が増加し、血管透過性が亢進する。こうした炎症徴候は、受傷から10日ほどでその役割を終えるのが一般的な経過とされている。にもかかわらず、慢性的に炎症が続くケースが少なからずある。とても厄介な病態が作られるわけであるが、そこに介在する機序はやや趣が変わっているようだ。

そこで、最近施療した患者さんの症例から、その慢性炎症の機序を考えてみることにしたい。ここに紹介する患者さんは中年の婦人である。かれこれ2年近くも、左足首の炎症徴候に悩まされてきた。右足首が大きく腫れあがり、距骨も内側に転位していて(外返し)、特に内果周辺の腫脹が顕著である。発赤と熱感を伴い、ジャンプ徴候の痛みがある。その結果、正常歩行ができずに跛行している。運動・機能障害が伴い、慢性的な炎症徴候を示す患者さんである。ついに彼女は職を辞す破目になるのだが、職場から解放されても下腿筋群に有痛性痙攣(こむら返り)が頻繁に起き、夜間痛もあり、睡眠も妨げられていた。結局、退職して足首への過重負荷を軽減させようとしたことは、何の解決にもならなかったわけである。それでも、彼女は決して治療を怠ってきたわけではない。むしろ積極的にいろんな治療を試みたあげく、大学病院の整形外科を受診している。診断は「偏平足」だった。特注の足底板が作られたが、それでも一向に腫れも痛みも終息しなかった。

この症例で、私が注目したことは「有痛性痙攣」が頻発していることだった。そこで、その筋・筋膜に対応してみた。加えて、体性感覚のみならず視覚、前庭系からの調節も行ったが、これらは重力場における身体の空間認知機能を確立するのが狙いだった。その上で、貯留した足首の腫脹には伸縮性テーピングを用いて補助的なポンプ作用を促した。手短に言えばそれだけであったが、その結果は劇的なものだった。治療1週間後の再診時には腫脹が3分の1に縮小し、歩行や随伴症状も良好になったのである。この長く続いた炎症徴候の終息に、いったい何がどのように作用したのだろう。慢性の炎症徴候を考える素材になりそうだ。

腫脹をもたらす元凶はプロスタグランジンによる、と生理学で学んだ。プロスタグランジンの生成を抑えるために、この患者さんは長く消炎鎮痛薬(NSAID)を服用し続けている。それなのに腫脹は治まることなく、2年間も続いたことになる。そもそもケガや火傷などでは、肉体的危機を回避するための警告として発痛物質が作動する。警告は感覚器から脳へ伝えられるが、警報の大小(あるいは強弱)で言えば大は小を兼ねる。そのための増幅物質として、プロスタグランジンが重要な働きをしているのだろう。だからプロスタグランジンは、常に体内で生成され、緊急時には迅速な対応に備えている。まるで「眠らない物質」である。

プロスタグランジン生成の素材は細胞膜であるから、材料には事欠かない。その上、脂質の摂取も日常的である。だからと言って、痛みや腫脹の炎症徴候をプロスタグランジンだけに責任を押し付けるわけにはいかない。なぜなら、プロスタグランジンは反復的な筋や腱の運動でも生成されているからで、そのことが即ち発痛を起こすとは限らないからである。また、NSAIDを事前投与していることで、プロスタグランジンの生成を抑えることができるという研究もある。では、2年間も続いた患者さんの炎症徴候が、なぜ簡単な手法で止まったのだろう。その疑問を読み解くと、痛みや炎症の根本的な問題に合点がいく。さて、この患者さんは「思い当たるケガの経験はない」と言っていたように、2年間も損傷が続いてきたわけではないのである。だから続いている腫脹は、プロスタグランジンに主たる責任がないことは明らかである。その証拠に、NSAIDを服用しても効果がなかった。したがって問題は緊急性のAδ線維の受容器興奮にあるのではなく、C線維のポリモーダル受容器にあると推測できる。

腫脹は血管透過性の亢進の問題である。血管透過性とは、高分子のタンパク質や血球のような比較的大きなものが血管外へ出る動きが高まっていることである。筋肉などへ走行する小動静脈の血管を拡張し、血管透過性を亢進するのはポリモーダル受容器から放出される神経ペプチドなのだ。要するに、ポリモーダル受容器が興奮状態にあるのだろう。侵害刺激は、痛覚受容器を直接興奮させることで炎症メディエーターをつくる。それはブラジキニン、プロスタグランジン、セロトニン、ヒスタミンなどであるが、おもしろいことに直接的にポリモーダル受容器を興奮させる物質は「ブラジキニン」だけのようだ。その他の物質は間接的にポリモーダル受容器の興奮にかかわるだけで、直接的な作用はほとんどない。そしてブラジキニンは、低濃度でもポリモーダル受容器を興奮させることが知られている。このことは極めて重要なポイントでもある。

さて、この患者さんは身体の空間認知機能のアンバランスによって、身体負荷を特定の筋・筋膜組織が代償せざるを得ない状況が続いたのだろう。その筋・筋膜への機械的刺激が持続的に加わることで、ポリモーダル受容器が侵害され続けたものと考えられる。この刺激が解除されれば、ポリモーダル受容器の興奮も沈静化する。重要なのはプロスタグランジンではなく、ポリモーダル受容器を侵害し続ける刺激なのだろう。ポリモーダル受容器は、効果器としての多面的な作用のひとつを発揮すべく、活動し続けるのである。そしてポリモーダル受容器は、小動静脈の拡張と透過性の亢進に働く。

筋・筋膜には、ポリモーダル受容器が多数存在している。このポリモーダル受容器の機械的受容器が刺激され続けているかぎり、そこでは慢性的に炎症徴候の下地が消えないことになる。直接的であろうと、間接的であろうと、筋・筋膜への対応は痛み治療の鍵だと思う。たとえ長期的な経過を辿ろうとも、直接に末梢受容器が介在している病態は、侵害受容性疼痛の延長線上にある。要するに、末梢受容器の生理的な反応に他ならないのだ。大事なことは、そこから厄介な「痛みとしての病」に転化していくことをくい止めることである。痛み治療における最初の役割が、そこにあるように思う。

※この記事は、守屋徹氏のブログ「脳‐身体‐心の治療室」の痛み学NOTE」のダイジェスト版です。全文はhttp://mchiro.exblog.jp/でご覧ください。


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