《第44回》炎症・腫脹にみる合目的活動のダイナミクス 血管透過性亢進の仕組みと組織修復 | カイロジャーナル

  《第44回》炎症・腫脹にみる合目的活動のダイナミクス 血管透過性亢進の仕組みと組織修復

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痛み学NOTE 《第44回》炎症・腫脹にみる合目的活動のダイナミクス 血管透過性亢進の仕組みと組織修復2016.02.06

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炎症現場での戦略に注目
カイロジャーナル84号 (2015.10.21発行)より

おもに炎症反応に関わる微細血管の血管壁は二重構造になっている。血管の外側に壁細胞があり、その内腔面には内皮細胞がまるでジクソーパズルのように隙間なく配列されている。通常、この血管壁を通過する物質は水と水溶性物質、そして酸素や二酸化炭素などの気化物質に限られている。当然、血漿タンパク質(免疫グロブリン、フィブリノーゲンなど)や細胞などは通過できない仕組みである。ところが、炎症が起こると事態は一変する。

最初に、炎症性物質であり内因性の発痛物質であるブラジキニン(BK)、プロスタグランジン(PG)、ヒスタミン、セロトニン、サイトカインなどが、血管の内皮細胞を刺激する。すると、刺激を受けた局所の内皮細胞は縮む。この内皮細胞の収縮によって、隣接した細胞間の接合部には隙間ができる。この隙間が血管透過性の亢進という現象を生みだすのである。

炎症が起こると血管は拡張し、血流量は増加する。内皮細胞が収縮すると内圧が高まる。こうして血管の透過性を亢進させる仕組みになっている。血管の透過性が亢進するというステップは、生体防御という戦略実行のメカニズムを発動させる最初の戦術となるのだ。すべては白血球という強力な戦力を損傷局所に動員して生体を防御し、組織を修復させるためである。こうして合目的でダイナミックな活動が展開されていく(図)。

さて、血管の透過性が高まると、水分は血管から滲出する。血漿成分も組織液へ滲み出る。したがって腫脹(浮腫)が起こるのだが、このプロセスが実に巧みである。血漿成分が滲出すると、血管内の血液成分は減少することになる。当然、粘性は増す。つまり血液が濃縮されるわけで、血液の流れは緩やかになる。血流が緩やかになることで、血管の中心を流れている血液成分が血管の内皮細胞に集まってくる。白血球を血管外に誘導し損傷部位に向かわせるためには、どうしても白血球を内皮細胞の膜周辺に待機させておく必要があるのだ。

一方、炎症局所の細胞群からは「ケモカイン」という白血球走行因子が分泌され、それを周辺に拡散させる。このケモカインが血管に到達すると、血管の内皮細胞が刺激される。白血球の働きを誘導するためには、ケモカインが重要な作用の担い手になっている。ケモカインは、西部劇に出てくる幌馬車隊を誘導する偵察隊のような働きとして理解しておくと分かりやすいかもしれない。血管の内皮細胞の膜表面には、白血球を内皮細胞に引き寄せる細胞接着因子(セレクチン、インテグリン)があり、ケモカインはこれらの接着因子を活性させる役割も受け持っている。

この作用によって、内皮細胞に引き寄せられた白血球は膜面に沿って走行していく。そして、内皮細胞の収縮によって生じた隙間から血管外に出る。この間隙を抜けるときに、白血球はアメーバーのように形を変えて通り抜ける。そしてタンパク質分解酵素(MMP)を分泌し、血管壁細胞の基底膜を部分的に破壊して血管外に出ることになる。これが浸潤といわれる作用である。

白血球の向かう先は損傷部位であるが、この走行もケモカインが誘導する。拡散されたケモカインには組織中に濃度があり、白血球は濃度の低い方から高い方へと濃度勾配に逆らった走行によって炎症局所に誘導されることになる。白血球には好中球(多核)、マクロファージ(単球)、リンパ球などがある。好中球は「小食細胞」とも呼ばれている多核の細胞で、比較的小さな異物・壊死物に対する食作用を行う。だから損傷の比較的早期には好中球の浸潤が多くみられる。マクロファージは単球であり、比較的大きな異物・壊死物の食作用にかかわっている。そのために「大食細胞」とも呼ばれていて、損傷の後期に活躍するとされている。初期には好中球が前線部隊として出動し、銃後の守りにはマクロファージが活躍するという図式だろうか。そしてリンパ球は、免疫機能にかかわる抗原情報を提示する役目を担っていることになる。こうして炎症の現場では、実に戦略的でダイナミックな活動が繰り広げられているのである。

侵害刺激に反応して、後根神経節(DRG)ではサブスタンスPやカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)といった神経ペプチドがつくられるが、これらは末梢のポリモーダル受容器に、神経と液性の信号伝達のメッセンジャーとして待機するわけである(注)。しかも持続的に監視と伝令の役割を担う。DRGで産生されるサブスタンスPの95%は、末梢のポリモーダル受容器に運ばれて重要な効果器としての作用を果たしている。

例えば、小動脈には血管を拡張させる作用をもたらすし、小静脈には血管の拡張性を亢進させる。あるいは肥満細胞へ働きかけてヒスタミンを放出し、積極的に炎症反応にも関与している。だから血管の透過性の亢進も、血管の拡張も、また腺分泌の促進もヒスタミンの作用によるのである。またT細胞を増殖して、免疫機能の増強作用にもメッセンジャー役を務めている。さらに内臓平滑筋の活動調整も行うなど、幅広い活動調整に関わっている。要するにポリモーダル受容器は痛覚系の過剰興奮のみならず、修復と鎮痛の重要なポイントでもあるのだ。

炎症・腫脹・痛みには、特にプロスタグランジンが注目されている。が、そうした認識を改める必要がありそうだ。プロスタグランジンなどはポリモーダル受容器を直接興奮させる作用を持たないからで、組織の現場では低濃度のブラジキニンでもポリモーダル受容器を興奮させるとされている。炎症・腫脹・痛みにかかわる組織内でのダイナミックな活動は、実に複合的で合目的である。

(注)細胞工学「脳を知る(2.痛みは歪む;熊澤孝朗)」。神経ペプチドの広範な修復活動の作用は、第12回痛み学NOTE「防御反応としての炎症を演出するポリモーダル受容器」(http://www.chiro-journal.com/に掲載)で引用した「ポリモーダル受容器の効果作用」(熊澤孝朗作図)参照。

※この記事は、守屋徹氏のブログ「脳‐身体‐心の治療室」の痛み学NOTE」のダイジェスト版です。全文はhttp://mchiro.exblog.jp/でご覧ください。


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