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  第25回 手関節のバイオメカニクス

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スポーツ・カイロプラクティック 第25回 手関節のバイオメカニクス2015.08.15

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手関節のバイオメカニクス
カイロジャーナル82号(2015.2.23発行)より

手根骨は8個の骨(舟状骨、月状骨、三角骨、豆状骨、有鈎骨、有頭骨、小菱形骨、大菱形骨)によって構成されています。また、手根骨は近位列と遠位列に分類されており、近位列には舟状骨、月状骨、三角骨、豆状骨、そして遠位列には大菱形骨、小菱形骨、有頭骨、有鈎骨があります。6近位列にある手根骨のポジションやバイオメカニクスは周辺関節の機械的負荷による影響を受けます。8一方、遠位列にある手根骨は手根骨間靭帯によって固く結合しているため、可動性は非常に小さくなっています。

手根骨の近位列

  • 舟状骨
  • 月状骨
  • 三角骨
  • 豆状骨

手根骨の遠位列

  • 大菱形骨
  • 小菱形骨
  • 有頭骨
  • 有鈎骨

手には、遠位橈尺関節、橈骨手根関節、手根中央関節、手根中手関節、中手指節関節、指節間関節(近位、遠位)の6種類の関節があります(図1)。これら6つの中で中心となるのが、橈骨手根関節と手根中央関節の二つです。橈骨手根関節は凹面の橈骨遠位端と凸面の舟状骨、月状骨、三角骨によって構成されており、主に屈曲/伸展と橈屈/尺屈が生じます。さらにこれらの運動が合わさることで循環も起こります。手根中央関節は手根骨の近位列と遠位列によって構成されている関節です。この関節においても屈曲/伸展、橈屈/尺屈が生じます。

図1

屈曲と伸展

1.冠状面

一般的に屈曲は橈骨手根関節において生じ、伸展は手根中央関節において生じていると言われています。しかし、近年CTスキャン等により、さらに詳細な運動解析が行われています。3,5それによると、屈曲は主にSTT(scapho-trapezio-trapezoid)関節*、舟状骨月状骨関節、橈骨月状骨関節の間で生じます(図2)。一方、伸展は橈骨舟状骨間関節、舟状骨月状骨間関節、月状骨有頭骨間関節、三角骨有鈎骨間関節の間で生じています(図3)。これら二つのラインが交差する部分にあるのが舟状骨月状骨間関節であり、舟状骨月状骨間靭帯です。つまり、舟状骨と月状骨の間には運動に伴い大きな負荷がかかる傾向があります。従って、舟状骨月状骨間靭帯は、手にある靭帯の中でも損傷の好発部位となっています。臨床的には背側舟状骨月状骨間靭帯が重要であり、この部位が損傷することで舟状骨月状骨間関節には顕著な不安定性が現れます(舟状骨は屈曲位、月状骨は伸展位)。

注釈;STT(scapho-trapezio-trapezoid)関節*scapho=舟状骨、trapezio=大菱形骨、trapezoid=小菱形骨

図2 手関節屈曲

図3 手関節伸展

S=舟状骨、L=月状骨、Tq=三角骨、P=豆状骨、H=有鈎骨、C=有頭骨、Td=小菱形骨、Tm=大菱形骨

また手首を完全屈曲位から伸展させた時の手根骨の運動は以下のようになります(屈曲では伸展の反対の運動が起こります)(表1)。

  1. 手関節伸展の初動において遠位列にある手根骨の伸展が起こります(この時、近位手根骨には運動は起こりません)。
  2. 手関節が中立位に到達すると有頭骨と舟状骨の間の関節がしまりの位置(Close-packed position)になるため、これら二つの骨が一緒に動き出します。この時点で遠位手根骨に舟状骨を加えた5つの骨が一つのユニットとして働くようになります。
  3. 手関節伸展が45°に到達すると舟状月状骨間関節がしまりの位置になり、手根骨全体が一緒に動き出します。
  4. 完全伸展位では橈骨とTFCCに対して手根骨がしまりの位置になります。9
表1
伸度 手関節
<0° 遠位手根骨の伸展が起こる
0°~45° 有頭骨と舟状骨の間の関節がしまりの位置になる
45°< 舟状骨と月状骨の間の関節がしまりの位置になる

2.矢状面

屈曲/伸展の運動を手の矢状面において考察してみましょう。屈曲/伸展は、主に手の中心列(橈骨~月状骨~有頭骨~有鈎骨)において生じます(コラム理論の項参照)。手首が屈曲する時、手根骨の中で月状骨にもっとも大きな運動が生じます。2屈曲全体の60%から70%が月状骨によって生じています。しかし、手根中央関節よりも橈骨手根関節においてより大きな可動性があるとしているレポート11やこれら二つの関節ではほぼ同程度の可動性があるとするレポートもあります。1,15

伸展では月状骨の前方滑りと後方回転が起こります。この時、有頭骨にも月状骨に対して前方滑りと後方回転が生じています。屈曲では伸展の逆の運動が起こります(図4)。

図4 左手の中心列における伸展の様子
手首の伸展に伴い月状骨と有頭骨はともに前方滑りと後方回転が生じる。図の中のxは有頭骨の運動軸を示す

3.手根骨近位列の運動

遠位列の手根骨はほぼ一体となって動くことがわかっています。2,12,13,17一方、近位列にある舟状骨、月状骨、三角骨はそれぞれが独立して動きます。また手首の屈曲/伸展においてもっとも大きな可動性を持つ手根骨は舟状骨であることがわかっています。以上のことから、手首屈曲時に舟状骨は月状骨に対し屈曲し、手首伸展時には舟状骨は月状骨に対して伸展していることになります。また、手首の屈曲に伴い舟状骨と三角骨は月状骨に対して回内し、手首の伸展に伴い回外することもわかっています。

橈屈と尺屈

手首の橈屈/尺屈は主に橈骨手根関節と手根中央関節で生じます。橈屈では、舟状骨が橈骨茎状突起とインピンジメントを起こすため、橈屈における橈骨手根関節の可動性は大きく制限されています。従って、橈屈のほとんどは手根中央関節において発生します。一方、尺屈では橈骨手根関節と手根中央関節がほぼ同程度の可動性を持ちます。

橈屈では橈骨に対して近位列の手根骨は尺側に滑り運動が起こり、尺屈ではその逆の運動が起こります(回転軸は有頭骨にあります)(図5)。また、橈屈では近位列は屈曲し、遠位列は伸展します。2,7それにより、舟状骨が橈骨茎状突起と衝突(インピンジメント)するのを防いでいます。14,16逆に尺屈では近位列は伸展し、遠位列は屈曲します。

さらに橈屈では近位列は回内、遠位列は回外し、尺屈ではその逆が起こります(表2)。2個人差はありますが、一般的に遠位列は近位列に対して可動性は小さくなります。

図5 手首の橈屈と尺屈
手首の橈屈と尺屈では、有頭骨(C)を運動軸(x)として近位手根骨(舟状骨(S)、月状骨(L)、三角骨、豆状骨)の滑り運動が生じる。

完全橈屈位において、橈骨手根関節と手根中央関節はしまりの位置となるため、この時手関節の可動性は最も小さくなります。4,18,19また、手関節が伸展位の時、関節はしまりの位置となるため橈屈/尺屈の可動性は小さくなり、屈曲位においてゆるみの位置(Loose-packed position)となるので、逆に可動性は大きくなります。

表2
橈骨手根関節 近位列 遠位
橈屈 尺側への滑り運動 屈曲+回内 伸展+回外
尺屈 橈側への滑り運動 伸展+回外 屈曲+回内

今回の記事はこちら(YouTube)においても解説動画をご覧になれます。どうぞご参照ください。

参考文献
  1. Berger RA, Crowninshield RD, Flatt AE: The three-dimensional rotational behaviors of the carpal bones. Clin Orthop; 167: 303-310, 1982
  2. Berger RA: The anatomy and basic biomechanics of the wrist joint. J Hand Ther; 9: 84-93, 1996
  3. Camus EJ, Millot F, Larivière J, Rtaimate M, Raoult S. Kinematics of the wrist using 2D and 3D analysis. Biomechanical and clinical deductions. Surg Radiol Anat 26:399–410, 2004
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榊原直樹, DC, DACBSP®, ICSSD, CSCS
Cleveland Chiropractic College卒

スポーツ医学&カイロプラクティック研究所

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スポーツ・カイロプラクティック学位(DACBSP)
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