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  第16回 股関節インピンジメント症候群

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スポーツ・カイロプラクティック 第16回 股関節インピンジメント症候群2015.08.06

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股関節インピンジメント症候群
カイロジャーナル73号(2012.2.29発行)より

イントロダクション

股関節痛は年齢を問わず一般的な症状です。股関節の関節唇や関節軟骨は痛みの原因となるだけでなく、変性が進行しやすい構造でもあります。9

股関節インピンジメント(Femoroacetabular impingement=FAI)症候群は、股関節の痛みや可動域制限の原因として特に若い人たちにおいて増加傾向にあると言われています。6FAI患者の股関節では、大腿骨と寛骨臼の間の接触が正常でないため、股関節の反復動作により関節周辺構造(関節唇、関節軟骨等)に微細外傷(Micro-trauma)が発生します。そのため、変性が進行しやすい傾向にあります。よって、FAI症候群と変形性股関節症の二つの症状は非常に関連性が深いと言われています。FAI患者の関節軟骨は変形性股関節症の患者のものとほぼ同じ状態であったとする研究報告4,5,10やFAIは変形性股関節症の初期症状である2,3といった研究報告は、このことを裏付けています。

FAI患者の主訴には、股関節前部の痛み(鼡径部痛)や股関節の可動域制限(特に屈曲、外転、内旋)(FAI症候群の誘因となる症状には、以下のようなものがあります。

  • レッグ・カルベ・ペルテス病(Legg-Calve-Perthes disease:LCPD)
  • 大腿骨頭すべり症(Slipped capital femoral epiphysis)
  • 過大大腿骨頭(Coxa magna)
  • 股関節形成不全
  • 大腿骨頚部骨折

FAI症候群は、発生のメカニズムによって三種類に分類することができます。それらは、ピンサー(Pincer)型インピンジメント、カム(Cam)型インピンジメント、さらにそれら二つの混合型(Pincer+Cam)インピンジメントと呼ばれています。ピンサー型インピンジメントは寛骨臼蓋における構造的疾患がある場合のことであり、中年以降の女性に多く認められます。8またカム型インピンジメントは大腿骨側(大腿骨頭から大腿骨頚にかけての部位)の構造的疾患に起因しており、こちらは若い活動的な男性に多い傾向があります。8さらに混合型インピンジメントは上記二つのコンディションを併せ持っており、臨床的にはもっとも頻繁に見られるタイプです。

臨床的傾向

関節唇の損傷(断裂)は、もっとも頻繁に見られる症状です。股関節の傷害の後に徐々に痛みが現れてきます。初期の段階では陰部に痛みを訴えることが多く、運動や長時間の歩行などによって症状の悪化が起こります。また長時間の座位(デスクワークや車の運転等)によっても症状の悪化が見られます。股関節のロッキングやクレピタス(捻髪音)は、関節唇断裂の典型的な自覚症状ですが、FAI症候群の診断の要とはなりません。

股関節の可動域検査では制限が見られます。特に内旋、外転さらに屈曲に可動域制限が起こります。7また、内旋の可動域は屈曲位と内転位においてさらに制限が強くないrます。カム型インピンジメントの場合、他動的屈曲、内転そして内旋において痛みが誘発される傾向があります。12

1.カム型インピンジメント

カム型インピンジメントでは、大腿骨頭から大腿骨頚の前上部の形状に異常が見られます(寛骨臼は正常)。正常である場合、大腿骨頭から大腿骨頚の前上部はやや凹んだ形状をしていますが、カム型インピンジメントの場合、この部位が平坦もしくは凸状に盛り上がっています。そのため、股関節の運動(特に屈曲)に伴い、大腿骨頭と寛骨臼縁で衝突(インピンジメント)が発生します。その際、寛骨臼側の関節軟骨(寛骨臼縁の前上部)の損傷(または摩耗)が起こります。関節軟骨の損傷は、関節唇の剥離や断裂を引き起こします。このような状態が慢性化している場合、股関節の運動の度に大腿骨頭と寛骨臼との間でインピンジメントが反復されるため、骨棘の形成が促されます(変性の進行)。それが、さらに患者の主訴の悪化につながっていきます(図1)。

カム型インピンジメントにおける大腿骨頭から大腿骨頚にかけての構造的異常の原因については、まだ明確な見解は示されていません。臨床的には症状がはっきり表れる前の大腿骨頭すべり症であるとする説もありますが、最近では大腿骨頭と大転子の成長骨端の発達異常が、大腿骨頭から大腿骨頚における構造的異常の原因ではないかと言われています。11

図1:カム型インピンジメントにおける変性進行のメカニズム

2.ピンサー型インピンジメント

ピンサー型インピンジメントでは、寛骨臼側に構造的異常が見られます(大腿骨頭は正常)。寛骨臼の構造的異常には、寛骨臼後捻(Acetabular retroversion)や寛骨臼突出(Protrusio acetabulum)などがあります。いずれの症状も大腿骨頭が寛骨臼の中に深くはまり込んだような状態になっているため、股関節の運動に伴いインピンジメントが発生しやすくなっています。このタイプにおける変性の好発部位は関節唇です。関節唇の変性が進行すると骨化が起こるため、大腿骨頭に関節唇がさらに覆いかぶさるようになりインピンジメントが悪化します(図2-4)。インピンジメントは股関節前部で発生すると同時に、関節軟骨の損傷は反対側にある寛骨臼後下部で起こります(図3;Contre-Coupメカニズム)。2一般的に寛骨臼側における関節軟骨の損傷部位は局所的であるため、損傷程度も軽度であることが多いです。その一方、カム型インピンジメントの場合、損傷が深いところまで届いている場合が多く、広範囲にわたる関節唇の断裂も併発しています。

Contre-Coupメカニズム(図3)

カム型もしくはピンサー型インピンジメントでは、ともに関節唇の損傷が認められます。関節唇の損傷は、寛骨臼前上部が好発部位となっていますが、寛骨臼の後下部にも損傷が認められるケースが報告されています。1これは、Contre-coupメカニズムによって発生していると思われます。Contre-coupとは対側衝撃のことを意味しています。通常、これは脳震盪などによって衝撃が加わった部位の反対側に損傷が起こる場合に使われますが、似たようなことが股関節インピンジメントでも発生しています。大腿骨頭が寛骨臼前上部に衝突すると、その部分を支点にして大腿骨頭が持ち上がり、その反対側である寛骨臼後下部にぶつかります。この現象はピンサー型インピンジメントでより多く見られます。

図3 Contrecoupメカニズム


図1 股関節インピンジメント症候群発生のメカニズム
図1-1と図1-2は正常な股関節、図1-3と図1-4はピンサー型インピンジメント、図1-5と図1-6はカム型インピンジメント、図1-7と図1-8は混合型インピンジメント
ピンサー型インピンジメントでは寛骨臼の一部に肥大があるため、大腿骨頭に覆いかぶさっています。運動に伴い股関節前部と後下部においてインピンジメントが発生しています。またカム型インピンジメントでは、大腿骨頭と大腿骨頚の間にある凸部が股関節前部でインピンジメントを起こしているのがわかります。
参考文献
  1. Beck M, Kalhor M, Leunig M, et al: Hip morphology influences the pattern of damage to the acetabular cartilage: femoroacetabular impingement as a cause of early osteoarthritis of the hip. J Bone Joint Surg Br 87:1012-1018,2005
  2. Ganz R, Parvizi J, Beck M, et al: Femoroacetabular impingement: a cause for osteoarthritis of the hip. Clin Orthop Relat Res ;417:1?94,2003
  3. Ganz R, Parvizi J, Beck M, Leunig M, Notzli H, Siebenrock KA: Femoroacetabular impingement: a cause for osteoarthritis of the hip. Clin Orthop Relat Res ;417:112?20,2003
  4. Gautier E, Ganz K, Krugel N, et al: Anatomy of the medial femoral circumflex artery and its surgical implications. J Bone Joint Surg ;82B:679?83,2000
  5. Ito K, Leunig M, Ganz R: Histopathologic features of the acetabular labrum in femoroacetabular impingement. Clin Orthop Relat Res ;429:262?71,2004
  6. Klaue K, Durnin CW, Ganz R: The acetabular rim syndrome. A clinical presentation of dysplasia of the hip. J Bone Joint Surg Br ;73:423?9,1991
  7. Kubiak-Langer M, Tannast M, Murphy SB, et al: Range of motion in anterior femoroacetabular impingement. Clin Orthop Relat Res ;458:117,2007
  8. Lavigne M, Parvizi J, Beck M, Siebenrock KA, Ganz R, Leunig M: Anterior femoroacetabular impingement. Part I. Techniques of joint preserving surgery. Clin Orthop Relat Res ;418:61?6,2004
  9. McCarthy JC, Noble PC, Schuck MR, Wright J, Lee J: The Otto E. Aufranc Award: the role of labral lesions to development of early degenerative hip disease. Clin Orthop Relat Res ;393:25?37,2001
  10. Nötzli HP, Siebenrock KA, Hempfing A, et al: Perfusion of the femoral head during surgical dislocation of the hip Monitoring by laser Doppler. J Bone Joint Surg ;84B:300?4,2002
  11. Siebenrock KA, Wahab KH, Werlen S, Kalhor M, Leunig M, Ganz R: Abnormal extension of the femoral head epiphysis as a cause of cam impingement. Clin Orthop Relat Res ;418:54?60,2004
  12. Wyss TF, Clark JM, Weishaupt D, et al: Correlation between internal rotation and bony anatomy in the hip. Clin Orthop Relat Res,2007

榊原直樹, DC, DACBSP®, ICSSD, CSCS
Cleveland Chiropractic College卒

スポーツ医学&カイロプラクティック研究所

ブログ:スポーツドクターSのざっくばらん
スポーツ・カイロプラクティック学位(DACBSP)
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