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  第12回 ランニング障害

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スポーツ・カイロプラクティック 第12回 ランニング障害2015.08.02

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ランニング障害(傷害)
カイロジャーナル69号(2010.11.3発行)より

ランニングはあらゆるスポーツにおいて必須の運動です。しかし多くのアスリートがランニング障害(傷害)を経験しており、その割合は60%に達します。7したがって、ランニング障害はスポーツ障害の大きな部分を占めることになります。ランニング障害の原因には、トレーニング法やランニングフォーム、またはシューズの問題があります。ランニングに伴う下肢関節の過剰反復による障害には、足底筋膜炎(腱膜炎)、シンスプリント、疲労骨折(脛骨や足根骨など)、膝蓋靭帯炎(ジャンパー膝など)、腸脛靭帯症候群などがあります。

一番の問題はアスリート自身が自己判断によって、トレーニングメニューを決めている点です。専門書等により知識を得ることは可能ですが、それらを実践的なものにするための基本的な医学知識が欠けているために、非効率的なものになっている場合が多いと思われます。したがって、スポーツ障害の原因の一部には、誤ったトレーニング法があるという前提で考えなければなりません。それにより、アスリートの再受傷率を低く抑えることが可能になりますし、競技能力の向上にもつながります。

ランニング障害の予防や治療にとって、ランニングのバイオメカニクスの理解は不可欠です。ランニングでは、下肢の関節から骨盤、脊柱、さらに上肢の関節までの運動連鎖が生じます。特に足部は地面と直接コンタクトする部位であるので、そのコンディションは膝関節や股関節などに代償性の影響を及ぼします。逆に仙腸関節や腰椎の椎間関節の運動障害(関節の可動域制限など)が、下肢関節に影響を及ぼす可能性も十分考えられます。よってランニングのバイオメカニクスを理解する上で、体全体で起こる運動連鎖について精通していることが重要となります。

ランニングのバイオメカニクス

ランニングのバイオメカニクスは下肢の関節、特に足関節からの影響を強く受けます。距腿関節は距骨上面と脛骨、腓骨との間に形成される関節です。外果が内果よりもやや後方に位置しているため、この関節における運動の中心軸は完全な前額面ではなく、やや後方に傾いています。したがって、この関節において生じる運動は矢状面(底屈と背屈)になります。一方、距骨下関節(距踵関節)の運動の中心軸は矢状面に近いため、運動面は前額面(内反と外反)になります(図1)。また足関節で生じる運動に回内と回外があります。この運動は複数の関節で生じる運動が複合的に合わさったものです。

図1
    回内

  • 距腿関節の底屈
  • 距骨下関節の外反
  • 足根中足関節の外転
  • 回外

  • 距腿関節の背屈
  • 距骨下関節の内反
  • 足根中足関節の内転

荷重位における距骨下関節の機能には、足圧分布(重心)のコントロールや衝撃吸収などがあります。ヒールストライク時における衝撃は、距骨下関節から中足、前足へと伝達されます。またこの関節で運動が発生すると、脛骨には内旋または外旋の運動が生じます。6これら2つの関節における連動は1:1の割合で生じています。つまり回外1°に対して脛骨では1°の外旋が起こり、回内でも同様の割合で脛骨の内旋が起こります。10またヒールストライクのあとに生じる距骨下関節(または踵骨)の外反は、足部にある他の関節にも連動を引き起こします。

横足根関節は距骨下関節と同様、その運動軸は長軸方向に伸びています。そのため、この関節は第2の距骨下関節とも呼ばれています。横足根関節では、外反/外転と内反/内転のコンビネーションで運動が起こります。

足根中足関節(リスフラン関節)には5つのRayがあります。1st rayは内側楔状骨と第1足根骨によって構成されています。この関節では、底屈/内反/内転と背屈/外反/外転の運動が起こります。32nd rayは中間楔状骨と第2中足骨によって構成されています。第2中足骨は、第1中足骨と第3中足骨底と強くかみ合っているため、可動域が著しく制限されています。そのため、スタンスフェーズにおいて第2中足骨は、大きな負荷にさらされることになります。3このことは、長距離ランナーにおいて、第2中足骨底の疲労骨折が好発することとも関連があります。

中足趾節関節では、屈曲と伸展が起こります。この関節の運動軸は、第2中足骨頭から第5中足骨頭へと伸びています。3スタンスフェーズにおいて(トーオフの直前まで)、中足趾節関節が伸展するに従い、この関節の制限は大きくなっていきます。4したがって、トーオフにおいて必要な推進力が効果的に生じます。この現象を中足骨ブレイクと呼びます。中足趾節関節で発生する重要な現象です。

足底筋膜もトーオフにおける推進力に貢献しています。足底筋膜は踵骨隆起内側突起に起始を持ち、中足趾節関節周辺に停止があります。中足趾節関節周辺では、足底筋膜によるWindlass機構(メカニズム)が作用します。トーオフの直前に中足趾節関節において伸展が起こると、足底筋膜の短縮が生じ、踵骨と中足骨頭を同時にけん引します。5この作用により、縦足弓(足底アーチの一つ)が挙上し、さらに横足根関節は屈曲位になることで、足部の安定性を強固にします。また虫様筋や骨間筋などの足の内在筋の収縮によって、足部の安定性はさらに増します。


足底には3つのアーチが存在します。2つの縦足弓(内側と外側)と1つの横足弓です。足部にある靭帯は外側に比べ内側の方が、厚みがあり頑強にできているため、荷重位において足関節が過剰回内するのを防いでいます。第1中足骨頭の足底部にある種子骨は、トーオフ時の衝撃吸収、摩擦軽減の役割を担っています。

足関節の回内と回外によって生じる代償的な関節の運動連鎖については、表1にまとめてあります。

表1 足関節の回内/回外によって生じる運動連鎖12
回内 回外
矢状面 前額面 横断面 矢状面 前額面 横断面
腰仙関節 伸展 側屈(同側) 前突 伸展 側屈(反対足) 後退
寛骨 前方回旋 挙上(同側) 前方回旋(同側) 前方回旋 下制(同側) 後方回旋(独足)
股関節 屈曲 内転 内旋 伸展 外転 外旋
膝関節 屈曲 外転 内旋 伸展 内転 外旋
足関節 底屈-背屈 内旋 背屈-底屈 外旋
距骨下関節 底屈 外反 内転 背屈 内反 外転
横足根関節 背屈 内反 外転 底屈 外反 内転

歩行やランニングにおいて問題となるのは、ヒールストライク(heel strike:踵接地)からトーオフ(toe off:足趾離地)までのスタンスフェーズ(立脚相)においてです。ヒールストライク時において、垂直方向には体重の2倍から3倍、前方へは体重の50%、さらに内方へは体重の10%程度の負荷がかかっています。9ランニング時に体にかかる負担は膨大です。最初に足が地面に接触した瞬間、体には体重の10倍以上の負荷がかかっています。11体重150ポンド(約69kg)の人が、2.5フィート(約76cm)の歩幅で1マイル(約1.6km)歩行する際、2110歩かかります。ヒールストライクにおいて体重の80%の負荷がかかると仮定した場合、1マイルの歩行に伴い、それぞれの足には63.5トンの負荷がかかることになります。また同じ人がジョギングを行った場合、歩幅は4.5フィート(約137cm)となり、1.6マイルを走るのに必要な歩数は1175歩になります。ヒールストライク時には体重の250%の負荷が体にかかるため、それぞれの足には1マイルのジョギングで110トンの負荷がかかっています。2.8またヒールストライク時には、内側楔状骨と第1足根骨底にもっとも大きな負荷がかかると同時に、踵骨(距骨下関節)には内反力が加わります。13さらにトーオフでは外反の負荷が加わります。ランニング時に発生するこれらの負荷について理解することは、ランニング障害の発生のメカニズムを理解する上で不可欠なものとなります。

ランニングのバイオメカニクスにおいて、鍵となるのは距骨下関節(距踵関節)と距腿関節の運動です。ヒールストライクでは、踵の後外側が地面に接地します。その瞬間、上記の関節には回内が生じます。この回内運動によって関節がアンロックされた状態になり、関節可動域が増すことになります。また、この運動は踵骨が外反することによって、より効果的に達成されます。このとき距骨と踵骨の運動軸が平行関係にあるというのが、その理由です。

図2-1

図2-2
距骨下関節の運動軸

踵骨の外反に伴い、踵骨と距骨の運動軸は平行関係になります。そのため距骨下関節における関節可動性が増加します(図2-1)。
一方、踵骨が内反すると、踵骨と距骨の運動軸は平行関係にはありません。したがって関節可動性の減少が起こり、距骨下関節における安定性が増加します(図2-2)。

先述したようにヒールストライクでは、踵骨の後外側が最初に地面に接地(初期接地)します。初期接地では踵骨は内反位になっています。ジョギング時には、さらにその20msから30ms後に踵骨が地面に対してフラットな状態になります(踵骨の外反)。1ヒールコンタクトにおける衝撃吸収は、踵骨(距骨下関節)が内反位から外反位に変位するとき(距骨下関節の回内)に起こります。このことは、逆に距骨下関節の運動障害(可動域制限)が存在する場合、ヒールストライクにおける衝撃吸収に大きな影響を与える可能性があるということを示唆しています。その後、踵骨は内反(距骨下関節の回外)することにより、足関節がロックされた状態になります。踵骨内反にともない、距骨と踵骨の運動軸が平行でなくなるため、可動域の著しい制限が生じます。この可動域制限は筋肉や靭帯からの作用(下腿三頭筋とアキレス腱)によってさらに補強されます。下腿三頭筋は足関節の底屈筋です。また、距骨下関節の運動軸との位置関係から、後足(踵骨)の内反にも関与します。そのため、下腿三頭筋は足関節の回外運動にも大きな影響を及ぼしています。また大殿筋は、その筋線維の走行が股関節から仙腸関節に向かっています。そのため、大殿筋の短縮性収縮により股関節には外旋が起こります。ヒールストライクの瞬間、大殿筋には強い緊張(短縮性収縮)が生じます。したがって、このとき股関節には外旋方向の力が加わっていますが、大殿筋の機能低下がある場合、股関節が内旋位となります。股関節が内旋位になると膝関節は外反位になります。膝関節の過剰外反は前十字靭帯や半月板、また関節面(関節軟骨)への負荷を増加させるので、損傷リスクを高めることになります。またこの筋肉は伸張性収縮をすることにより、股関節内旋のコントロールも行なっています。

参考文献
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榊原直樹, DC, DACBSP®, ICSSD, CSCS
Cleveland Chiropractic College卒

スポーツ医学&カイロプラクティック研究所

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スポーツ・カイロプラクティック学位(DACBSP)
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