ゲートコントロール理論を補完する 「ディスアファレンテーション理論」とは | カイロジャーナル

  ゲートコントロール理論を補完する  「ディスアファレンテーション理論」とは

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痛み学NOTE <第43回>ゲートコントロール理論を補完する 「ディスアファレンテーション理論」とは2015.03.14

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カイロジャーナル82号 (2015.2.23発行)より

1 マニピュレーションとは何を治療するのか、その新提言登場

確か1997年頃だったと思う。アメリカにおけるカイロプラクティックのある研究者グループが、マニピュレーションの作用機序に関する仮説を提唱していることを知った。
それは「ディスアファレンテーション:Dysafferentation(求心性入力不均衡)」という仮説である。サブラクセーションに対するマニピュレーションの作用機序を神経病態生理学的影響から構築した理論であった。

その重要な論文が『JMPT』誌に掲載されたと聞いて原著論文を探したが、私には見つけることが出来なかった。それでも概略を知れば知るほど、私はこの仮説の虜になった。カイロの病態生理学的影響を説明する仮説としては、画期的な意義を持っていると思えたからである。

いずれ必ず日本のカイロ業界でも紹介されることだろうと確信もしていたのだが、その論文の全訳を読んだのは10年以上も過ぎた2011年のことであった。それも私家版訳である。ここではその鎮痛機序に関する仮説を紹介したいが、その前に理論の前提となる重要な提案を確認しておきたい。

この理論では、マニピュレーションの治療対象として「関節複合体機能障害」が前提とされている。関節複合体機能障害は、長い間なにかと議論の的であったカイロプラクティックの「サブラクセーション/サブラクセーション複合体」に代わる概念として提示されている。

要するに「関節複合体に生じる病理的および機能的変化」を指す。

具体的には、

  1. 可動性減少・不動化の悪影響、
  2. 機能的アンバランス(筋の拘縮・短縮など)、
  3. 筋筋膜トリガーポイント、

の3つの基本的な要因の存在が指摘されている。

2 「ディスアファレンテーション」仮説の意義

関節複合体に生じる病理的・機能的変化における機能障害は、どのような神経病態生理学的影響を受けて、症状として現れるのか。それを説明する用語として「ディスアファレンテーション」の概念が提示されている。

カイロプラクティック理論では、重要な概念として「サブラクセーション」が想定されている。しかしながら、その概念は曖昧に語られ、その症状の発現も曖昧模糊としていた。それゆえに、時には「マニピュラティブ・サブラクセーション(マニピュレーションによる治療が可能なサブラクセーション):1979」と表現されたこともあった。おかしな意味づけである。が、この論文では明確である。

サブラクセーションというカイロプラクティックの用語は、神経病態生理学的解釈から「関節複合体機能障害」と代えられている。おそらく「サブラクセーション」は廃語とし、それに代わる新たな概念として甦らせたのであろう。

そして、症状発現の解釈モデルとして、求心性入力の不均衡(ディスアファレンテーション)を提示したのである。

もうひとつ、この論文が提示した重要な意義はカイロプラクティックの伝統的な解釈、すなわち「ガーデンホース理論」からの脱却を意図したことにある。

ガーデンホース理論は、サブラクセーションが遠心性経路に影響を与えるとする見解である。ミスアライメントによる遠心性の出力低下は、その末梢組織に病変をもたらす。

そこにあるのは「内側から外へ」の思考である。

逆に、ディスアファレンテーションは求心性入力に注目した理論である。求心性入力のアンバランスは、そのまま出力の不均衡となって表出される。これは近年の神経学的原則「下(末梢)から上(脳・中枢)へ、上から下」の発展的解釈でもあろう。

3 「ディスアファレンテーション」仮説から鎮痛機序を考える

ディスアファレンテーション仮説にしたがって、痛みと鎮痛の機序を読み解くと、ゲートコントロール理論を補完するような興味深い仮説になる。

痛みは侵害受容器に対する侵害刺激にはじまる。その要因として、組織損傷による機械的刺激と種々の化学伝達物質による炎症が起こる。その痛み刺激は反射性に交感神経活動を亢進させるし、筋スパズムも引き起こす。また座位などの生活習慣姿勢などの身体の不動化も痛みの要因となる。

これらはすべて関節複合体における機能障害(不動化の悪影響、筋のアンバランス、トリガーポイント、脊柱筋の失調)に関与する。そして同様に侵害受容器を興奮させることになる。

このとき求心性の入力はどうなるのだろう。痛み刺激を伝達する神経線維は、比較的細い神経(Aδ神経線維とC線維)である。同時に、筋紡錘からのⅠa線維やAβ線維(触圧覚)の太い神経線維からの入力信号は減少する。「侵害刺激の入力が増大」し、「圧・動きの機械刺激の入力は減少」する、という入力の不均衡な病態生理が同時性に伝導されるのである。この同時性現象は、体幹軸の筋肉のトーンの低下やアンバランスをもたらすことになる。

そもそも「ディスアファレンテーション」とは何か。

「Afferentation」は、「求心性神経インパルスの伝導」を意味する用語である。その求心路が破壊されると、インパルスは遮断あるいは阻害される。この状態は接頭語「de」をつけて「ディアファレンテーション」と用語されている。

ただし、求心性伝導路が破壊されていない「入力不均衡」の状態は、接頭語に「dys」が付けられて「ディスアファレンテーション」という用語で表現されている。それは関節複合体機能障害によって侵害刺激入力が増大し、同時に圧・動き刺激入力が減少することを意味している。求心性入力信号のアンバランスという神経病態生理学的な現象を指している。

この現象は損傷などによる反射性の病態に限ったことではない。例えば、加齢に伴い関節を構成する複合体では、筋肉、靭帯、椎間板などの軟部組織における柔軟性が失われてくる。関節も同様である。柔軟性を欠いた組織は機能的変化を伴うために、通常行っている動きに対してさえ耐性も減少する。結果、損傷しやすくなる。それが侵害刺激となり、脳はそれを痛みとして認識する。

こうした求心性入力の不均衡によって、身体にはさまざまな表出が行われることになる。それは痛みの継続であったり、自律神経系のアンバランスから来る不調であったり、身体平衡系の不調や不均衡として表出されるのである。

そもそも反射系は運動系と自律系に出力されている。C線維からの侵害刺激は脳でさまざまに修飾される。だから求心性入力の不均衡が続く限り、身体の不調に陥るリスクも消えることはないのだろう。

同様に、圧・動き刺激の入力も脊髄から大脳に至る中継核に入る。その結果として随意運動が適正に行われ、身体の平衡系が保たれ、自律系の恒常性維持に作用することになる。

鎮痛系の機序という観点に立てば、求心性入力の不均衡を是正することで大きく鎮痛に貢献するのだろう。

入力信号の減少したⅠa線維やAβ神経を刺激すると、入力の不均衡がバランスされることになる。つまりC線維の興奮が抑制される。ゲートコントロール理論も、ディスアファレンテーション理論から考えると頷けてくるように思うのだが、どうだろう。


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