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  第9回 足関節の不安定性(前編)

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スポーツ・カイロプラクティック 第9回 足関節の不安定性(前編)2014.09.06

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足関節の不安定性
カイロジャーナル66号(2009.10.16発行)より

足関節の捻挫はスポーツ障害でもよく見られる傷害の一つです。Fongらの研究によると、足関節はあらゆるスポーツにおいてもっとも傷害の多い部位であり、特に捻挫は足関節の傷害でよく見られるものです。7 傷害に伴う競技離脱の要因の25%が足関節の捻挫によるものと言われています。9.18 また内反捻挫(外側側副靱帯の捻挫)は足関節捻挫の85%を占めるのに対し、外反捻挫は5%、それらのうち10%は脛腓靭帯の捻挫を伴います。1.8.13.15 具体的には、足関節内反捻挫の受傷後、およそ20‐40%の患者に慢性的な不安定性が認められたという報告があります。2.3.14 足関節捻挫の再受傷率に関してはさまざまな研究がなされており、それらによるとおおよそ47-73%の人が複数回以上の捻挫を経験しています。6.28 表1はAmerican College of Foot and Ankle Surgeonsによって定められている足関節捻挫の程度の判定基準です。

足関節捻挫の受傷後、足関節の痛みや腫れ、「不安定感」さらに内反傷害の再受傷などが認められる場合、このような状態を慢性的足関節不安定性(Chronic Ankle Instability=CAI)と言います。慢性的足関節不安定性は2つに分類することができます。それらは機械的不安定性と機能的不安定性です。13.17 しかしTroppらは、これらの2つの不安定性の定義付けを試みています。彼らによると、機械的不安定性を「関節を補強している靭帯の損傷に伴い、関節可動域が生理的限界を超えている状態」と定義しています。それに対して機能的不安定性は「必ずしも関節可動域が生理的限界を超えている必要はなく、自発的なコントロールができていない状態」と定義されています。25

表1  American College of Foot and Ankle Surgeonsが定めている足関節捻挫の判定基準
グレード 靭帯の損傷 症状
グレードⅠ
  • 前距腓靭帯と踵腓靭帯の伸長
  • 軽度の痛みと腫れあり
  • 機能的不安定性はなし(患者は痛みなしに立位(荷重位)になることが可能)
  • 機械的不安定性はなし(負荷テストにおいて陰性)
グレードⅡ
  • 前距腓靭帯の部分断裂
  • 踵腓靭帯の伸長
  • 中程度の痛みと腫れあり
  • 軽度の内出血あり
  • 患部に圧痛あり
  • 関節の可動性と機能の一部低下(荷重位にて痛みあり)
  • 軽度から中程度の機械的不安定性あり
グレードⅢ
  • 前距腓靭帯と踵腓靭帯の完全断裂
  • 後距腓靭帯と脛腓関節の部分断裂
  • 重度の腫れあり
  • 重度の内出血あり
  • 関節の可動性と機能の不全(痛みのため荷重位になることが不可能)
  • 機械的不安定性あり

足関節不安定性のメカニズム

足関節の不安定性について考えるとき、距骨のバイオメカニクスを理解することは非常に重要です。距骨には靭帯の付着は存在していますが、筋肉(腱)の付着はありません。そのため他の足根骨に比べ不安定性の好発部位となり得ます。

一般的に足関節と言うと距腿関節のことを指します。距骨には踵骨との間に、距骨下関節(または距踵関節)もあります。これら距骨の上側と下側に存在する2つの関節は足関節不安定性のメカニズムに深く関わっています。しかし足関節の捻挫は内反(回外)傷害であることを考えると、距骨下関節の状態がいかに重要であるかが想像できます。

歩行時に踵骨が地面に着地した瞬間(踵接地)、距骨下関節には地面からの反力が作用します。このとき足関節の調整を行っているのが距骨(距骨下関節)です。踵骨から伝達された力が距骨に伝わり、距骨が回旋(内反または外反)することにより足関節のポジションを決めています。距骨下関節の運動(回旋)は、地面からの反力のベクトルと距骨下関節の回転軸との相対的な位置関係によって決定します。地面からの反力のベクトルは距骨下関節の回転軸の外方、さらに距腿関節の回転軸の前方を通ります(図1)。このとき足関節の外反と背屈が発生することになります。また各関節の回転軸(運動軸)と筋肉の腱の相対的位置関係から、それぞれの筋肉の機能の特徴を推測することができます。

図1 距骨と踵骨の上面図(距骨下関節と距腿関節の回転軸)

機械的不安定性(Mechanical Instability)

機械的不安定性には、外側側副靱帯損傷のような解剖学的(構造的)異常が伴うため 12.13.16.26.27 足関節の機械的不安定性で最も重要な所見は、距骨の運動障害(可動域亢進または可動域制限)です。関節における可動性の変化により、関節の瞬間回転軸(Instantaneous axis of rotation)の運動に異常なパターンが発生します。20.21 瞬間回転軸の異常な運動パターンにより、関節周辺構造(筋肉、腱、靭帯、関節包、滑膜、関節軟骨など)に負荷をかけることになります。それと同時に関節周辺に分布している固有受容器の機能異常が発生し、それはさらに関節の不安定性へとつながります。

関節に可動域亢進が認められるとき、靭帯や関節包が傷害から十分に回復していない可能性があります。サッカー選手を対象とした疫学的研究では、足関節に可動域亢進が認められる選手に、下肢の受傷率が非常に高いことが報告されています。19 Harperらによると、足関節の慢性的な内反不安定性を持つ被験者に対して、荷重位における距骨の前方への変位をX線によって検証しています。11 それによると、被験者の28.6%において距骨に異常な変位(>6mm)があったと報告されています。この検査では一般的には3mm以上の変位がある場合、足関節に機械的不安定性があると診断されますので、Harperの研究において、この基準を用いていたとしたら、より多くの被験者に不安定性が認められる結果になったことと思います。

一方、可動域制限が慢性的な足関節の不安定性の原因となり得るとする研究報告も多数あります。Denegarらによると、急性の内反捻挫を訴える被験者において、距骨の後方への可動域に制限が認められたと報告しています。5

距骨の後方への変位は、足関節の背屈に伴って生じる運動であるため、内反捻挫の患者に足関節背屈の可動域制限が生じることが推測されます。このように足関節の捻挫により距骨の可動域制限が生じるのは、距腿関節周辺軟部組織の線維化やそれに伴う癒着、されに関節包の硬縮(または変性)による機能低下に起因すると思われます。またこのような場合、距骨下関節や脛腓関節などの周辺関節への代償性の影響も考慮されるべきです。

Vegesらは足関節の機械的不安定性を、荷重位における距骨傾斜角(図2)が7°よりも大きい場合としています。彼らの研究によると、117の機能的不安定性を持つ足関節のうち、41の足関節に機械的不安定性が認められています。

図2 距骨傾斜角

距骨計斜角は距腿関節の不安定性を診断するために用いられます。内反捻挫により外側側副靱帯の一部または複数個所に損傷(断裂)が生じている場合に陽性となることが多いですが、その診断基準については4°から18°と幅があります(別表参照)。4.10.22-24 患者の脛骨を固定し踵骨を最大内反位に保持した状態で、X線撮影を行います。

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関連情報

榊原直樹, DC, DACBSP®, ICSSD, CSCS
Cleveland Chiropractic College卒

スポーツ医学&カイロプラクティック研究所

ブログ:スポーツドクターSのざっくばらん
スポーツ・カイロプラクティック学位(DACBSP)
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