痛み学NOTE<第20回>「圧迫性神経障害の症状は「麻痺」か「痛み」か?」 | カイロプラクティックジャーナル

  <第20回>「圧迫性神経障害の症状は「麻痺」か「痛み」か?」

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痛み学NOTE <第20回>「圧迫性神経障害の症状は「麻痺」か「痛み」か?」2011.06.26

カイロジャーナル71号 (2011.06.26発行)より

菊池臣一教授は、神経の圧迫については「圧迫する側」からではなく、「圧迫される側」の視点が重要だとする(「腰痛」28頁)。圧迫された神経根の内部で何が起っているのか? そのような視点でみると、圧迫性神経根障害の病態は2つに分けられると述べている。ひとつは神経根の伝導障害としての「麻痺」であり、もうひとつは「痛み」である。根性痛は、神経根内部の変化として浮腫が生じ、そのために異所性発火によって下行性の「痛み」が認知されるという仮説である。

痛みと麻痺は生理学的にも全く異なった病態である。感覚受容器は身体組織における物理的・化学的・熱刺激を電気信号に変換する器官で、その伝達は脱分極と再分極に依存する。痛みはその分極活動が活発に頻発されるもので、麻痺はこの分極活動が起らない。この全く異なった生理学的変化が、同じ病態に共存するはずはない。もしも麻痺と痛みが共存しているというのであれば、違う病態が混在した状態と言わざるを得ないだろう。

この問題を考える上で、3年ほど前に話題になった医療過誤事件を参考にしたい。2008年9月3日、新聞各社は次のニュースを伝えている。鳥取県立厚生病院における医療過誤により、医療賠償4500万円を支払うという記事であった。

2005年3月、頚部痛と両手の痺れを主訴とする女性が鳥取県立厚生病院を受診した。検査の結果ではヘルニアによる「脊髄の圧迫」が原因とされ、減圧手術が行われた。手術は成功し脊髄を圧迫していたヘルニア組織は摘出されたが、右手足に麻痺が現れた。これは術後の浮腫によって「脊髄を圧迫」したことが原因とされ、再び減圧する再々手術が行われたのである。ところが再々の術後には、さらに浮腫が広がり、今度は両手足の麻痺が起こった。病院側は手術に落ち度はなかったと主張したが、結果的に両手足の麻痺になったことを認めて賠償することになったというのである。

さて、ここで疑問に思うことは、「脊髄の圧迫」という病態を「痛み」と「麻痺」という生理学的に正反対の症状で同列に考慮していることである。脊髄の圧迫症状は麻痺をもたらすのか、痛みをつくるのか、第一にその実態は明確にされていないが、実際には脊髄の圧迫で麻痺が起ることを認めた結果になった。

では、主訴であった「首の痛みと両手の痺れ」の病態とは一体何だったのだろう? 問題とすべきは「両手の痺れ」である。実際、ベッドサイドでは「しびれる」と表現する患者さんの訴えをよく聞くことがある。この日本語表現は複雑だ。正座のあとの「しびれ(知覚異常)」も、知覚鈍麻を伴った知覚脱失(神経麻痺)も同じく「しびれ」と表現されるからである。

新聞報道で見る限り、その痺れの実態も範囲もうかがい知ることはできないが、推論するならば椎間板ヘルニアによる神経麻痺(しびれ)の症状に、痛みという別の病態が混在していたのかもしれない。あるいは、主訴とした首の痛みも両手のしびれ(知覚異常)も、頚椎ヘルニアとは全く別の病態による症状だったのかもしれないのである。明らかなことは、血腫や浮腫による脊髄の圧迫で苦しんだ症状は、痛みではなく麻痺であったことは事実のようだ。

もうひとつ、次の報告も暗示的である。日本整形外科学会安全推進委員会が、2006年6月までの3年9カ月間で腰痛治療に頻繁に用いられる「神経ブロック」で3人が死亡、5人が両足の麻痺になっていると発表した。この発表は、整形外科関係の事故316例の分析結果に基づいている。2名の死者は、神経ブロック後に全身麻痺になり、呼吸困難により死亡した。もう1人は注射器を体内に埋め込む方法のブロック注射で、挿入口からの感染症により敗血症で亡くなった。2例は麻酔薬の挿入部位を誤ったわけだが、いずれも不測の事態に対する適切な対応の遅れが死亡につながった。

さて、両足の麻痺が起った5人のうち3人は注射のやり方に問題があり、あとの2人は注射による血腫が「神経を圧迫した結果として麻痺」が起った。こうした事例では、「神経の圧迫」という病態が「麻痺」症状を起こすことを示している。どこにも、神経圧迫と「痛み」症状の関連は取り上げられていない。


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