「根性痛は本当に神経因性疼痛なのか」カイロプラクティックジャーナル

  「根性痛は本当に神経因性疼痛なのか」

カイロプラクティック、オステオパシー、手技療法の最新情報、セミナー案内、関連書籍・DVDの販売

カイロジャーナル TEL.03-3434-4236 〒105-0013 東京都港区浜松町1-2-13江口ビル別館

痛み学NOTE <第18回>「根性痛は本当に神経因性疼痛なのか」2011.02.25

カイロジャーナル70号 (2011.02.25発行)より

なるほど、根性痛は侵害受容性疼痛ではなく神経因性疼痛である、というわけだ。確かに、神経根も後根神経節(DRG)も受容器ではない。では神経因性疼痛とは何か。それは神経系の一次的な損傷やその機能異常が原因となる、もしくはそれによって惹起される疼痛のことである。

その定義するところによれば、「主な機序が末梢神経ないしは中枢神経系の知覚異常にある疼痛」(『臨床痛み学テキスト』P408)とされている。神経因性疼痛は、神経に対する直接的な損傷によるものであり、疾病であり、機械的な圧迫などにより痛覚伝導系自体が障害された病態なのである。神経系の原初の「傷」が引き金になる神経系における知覚系の疾患というわけだ。その原因も、中枢神経系にあるものと末梢神経系にあるものがあり、慢性痛症の一つに分類されている。

神経因性疼痛には、ボルタレンやロキソニンなどのNSAID(非ステロイド性消炎鎮痛剤)の効果はあまり期待できないとされる。にもかかわらず、臨床の現場では神経根症にこれらの薬が処方されている。おかしな話だ。

それだけではない。オピオイドも決定的な薬物ではなく、内因性の疼痛抑制系も期待できない。いわゆる治療困難な痛み系の一つなのである。当然、治療後に症状が消えることも稀である。慢性の経過を辿る治療困難な痛みとして、ヘルスケア上の重大関心事とされている疾患なのである。

さて、根症状の痛みは本当に末梢神経感作の神経因性疼痛なのだろうか。神経因性疼痛の病態生理学的機序として、次の5つの基本的要件が挙げられている(『臨床痛み学テキスト』P409)。
  1. 痛み感受性のあるニューロンへの直接の刺激
  2. 損傷された神経の自発性発火
  3. 中枢神経系の感作と求心路遮断による神経系の再構築
  4. 内因性の疼痛抑制系の破綻
  5. 交感神経依存性疼痛

これらの要因の一つから複数が関与するとされる。その根性痛と神経因性疼痛の関連を考える上で、上記の病態生理学的機序に関わる要件1.の「ニューロンへの直接的刺激」と、要件2.の「損傷された神経」の2点に注目したい。

確かに、後根神経節(DRG)は刺激に対して感受性が高い組織で、痛みとの関係に注目が集まっている。しかし、菊地教授も自著の中で、神経根の「機械的圧迫の存在が即、疼痛の原因を意味するわけではない」と述べているように、機械的圧迫には関連する複雑な要因が絡んでいると見ているようである。ましてや、椎間板の圧迫が神経根に傷をつけるとも考えられない。

そこで浮上してくるのが、椎間板由来の髄核液性成分が起因物質となって根症状を引き起こすのであろう、とする仮説である。それも病態解明はまだされていない。必要なことは、その髄核の液性物質が後根や易感受性の細胞体とされるDRGにおいて神経根炎を引き起こすか否かという検証である。

髄核から液性物質が流出し、吸収されるまでに1カ月程度かかると見られている。このことは椎間板ヘルニアによる根症状とされる痛みが、好転する時期と符合しており、そのことも神経根炎が起こるという仮説を後押しする理由のようだ。それには、神経根炎であることを証明しなければならない。「正常な脊髄神経根の圧迫は痛みを生じない」というのは、学者間の共通した認識である。そうかと言って、根性痛とされる痛みを神経因性疼痛とする根拠も希薄である。

では、百歩譲って神経因性疼痛だとしよう。だとすれば、それはカウザルギーということになるのだろう。神経因性疼痛の分類では、CRPS(complex regional pain syndrome:複合性局所疼痛症候群)である。これらは神経の切断や末梢神経の外傷後に起こる神経障害で、交感神経機能障害による血管運動神経と発汗の異常を伴い、持続性の灼熱痛と組織の栄養障害が認められる疼痛症候群である。

どう考えても、臨床の現場で見聞きするヘルニアの症状とはあまりにもかけ離れている。もしも異所性発火とするならば、根部で痛み信号を発しているのに、脳は下肢からの発信と誤認していることになる。それなのに、なぜ末梢の筋・筋膜に圧痛点が存在するのか、大きな疑問である。

そして何よりも、カイロプラクティックなどの徒手療法が根症状とされる痛みに効果的なのはなぜだろう。根症状を神経因性疼痛とするには、あまりにも実態と違っていると思わざるを得ない。

カイロプラクティックの臨床でも比較的多く見られ、世間的にもポピュラーな疾患が、難治性の神経因性障害であるとは信じがたいことである。それでも、根疾患を神経因性疼痛だとするならば、カイロプラクティック手技がどのような機序で神経因性の疾患に影響を与えているのか、その理論構築を仕直さなければならないだろう。


facebook公式ページへのリンク

長期連載中の記事

過去の連載記事